23・3・6

 久しぶりに渡辺淳一の「雪舞」を読んだ。10年以上も前に買って書棚に載っていた一冊である。

 舞台は彼のお手のもの。札幌の医科大学の外科の先生で、脳水腫の生れて8ヶ月の男の1人子の手術をめぐる物語である。手術をするにも体力が持つか、又、手術をしても治る見込があるか、という患者を母親の切なる願いを受けて医長に無断で手術をし、結局失敗。子供の父親からの訴えで医療紛争処理委員会にかけられ、裁定で賠償をさせられる、という荒筋である。

 これだけではありふれた話であるが、そこはそれ作者の得意の女性関係の心理描写も出て来て、一気に読まされた。

 この作者のものはかなり沢山読んでいるが、類型的なもののなかでも、「阿寒につ」が一番優れているのではないか、と思っている。二度読んだが、こんな女性がいたら是非会いたいと思ったであろう学生の姿を描いたもので、作者をめぐる実話だとも言われている。彼の作品の原点かな、とも思う。御一読をお奨めする。