池内さんの訃報を聞いて、今から40年近くも前のことを思い出している。
ある晩、御機嫌で赤坂の料理屋に二次会で行った時、玄関からの狭い廊下ですれ違った和服の美人を芸者さんと間違えて「よう、久しぶり。旦那さんは元気かね」と声をかけたところ、彼女の後をついていた女将があわてて、「池内さんよ」と私の横腹をつっついた。「あの、大へん失礼しました」とその場は平謝りだった。
それから暫くして、その話を聞いた安倍晋太郎から女将を介して池内さんと夕を共にしないか、と声がかかってきた。願ってもないことなので、喜んで出かけることにした。
その晩は、私がしくじった料理屋でそのお二人に芦田伸介さんが加わって4人で6時から酒盛りが始まった。私もその頃は一升酒だったが、池内さんも大へんな飲み手で、それでいて少しも崩れず、終始笑顔で爽やか。本当においしい酒であった。
さらに8時過ぎ頃から竹下登、中川一郎、三浦甲子男の諸士が加わり大いに談笑がもり上がってお開きは12時を回っていた。
池内さんは単に美しいというだけではない、本当に日本の女性のお手本のような雰囲気の人で、映画で好きだったが、それ以上にいい印象だった。
その後は、お互いに住む世界が違っていたので、たまにパーティーなどで会って立話をする程度であったが、まさか、亡くなられるとは思ってもいなかった。
しかし、思えば、その晩集まって飲んだ人達は今や全部故人。本当に寂寞の思いである、啞唖。
22・10・8