吉村昭の「東京の下町」を読んでいる。彼は昭和2年の生まれなので、私よりも8才若いが、戦争も知っており、大体私と同じ年代を生きていたので、日暮里で育った彼の見た下町は、横浜の下町で育った私とそう大差がないらしく、下町のいろいろな出来事のついての克明な記録は大へんに懐かしく、又楽しく読んだ。
私は、成城に住んで40有余年になるが、戦前と戦後との大きな違いは、場所にもよるが、概して、昔は隣近所のつき合いがあって、住民同士に何となく連帯感があったこと、又、何によらず物売りが多かったことではないかな、と思っている。
この頃は、隣は何をする人ぞ、という感じで、お互いにそう関心も持たなければ、何があっても助け合いをする、といったような感覚は持っていない。要するに人は人なのである。だから、暮すのにうるさくなくて良いと思うが、独りぼっちは文字どおり独りぼっちで淋しいではないか。