小島信夫の「残光」(新潮文庫)を読んで一言。彼は、私が一高に入った年に3年生であって、文芸部の委員として「校友会雑誌」の編輯に当り、自らも作品を発表していた。彼と同期に中村真一郎、2年生に加藤周一などという優れた先輩がいて、大いに刺激され、それらの先輩にいわば憧れて私達のクラスも小説を書き始め、校友会雑誌にも度々掲載されていた。

 小島信夫とは後年軽井沢で顔を合わせるようになった。90にして書いた残光は、彼の最晩年の生活を記していたが、果てしなく続く思考と情念を追って、知らず知らずどこまでも一緒に歩いているような思いのする一種不思議な文章であった。

 中村真一郎も先年亡くなった。こうして1人、2人と懐かしい名前が消えて行くのは辛いものだ。


                                   22・6・19