五月三十日の朝日(朝)の見出しである。作家谷崎潤一郎は源氏物語を三度も現代語訳した。私が戦前学生の頃買い求めて全巻を読んだのは和綴じの本で、毎月書店から送られて来たものを喰い入るような思いで読んだ記憶が残っている。
ところで、晩年の谷崎の口述筆記をしたエッセイストの伊吹和子さんの新著『めぐり逢った作家たち』によれば、谷崎は源氏が嫌いだった、少なくとも冷たかったという。
その谷崎が源氏を訳し続けた理由に、戦時中発行された旧訳の削除問題がある。
つまり、問題の核に当る光源氏と父帝の后である藤壺との禁断の恋をはじめ天皇にかかわる穏当でない箇所は、世間の反応をおそれた谷崎が、かなり広範囲に削っていたという。それは、谷崎がただ、当時の世間をはばかって為したのではなく、彼は、最初から源氏物語を素材にした谷崎源氏を書きたかったからなのだと伊吹氏は記しているという。
私には、よくわからないが、この間、瀬戸内寂聴氏の訳した『源氏物語』を読み始め、「藤壺」も読んだが、そんな私が抵抗を感じなかったのは、飽くまでも小説として読んでいるからであろうか。
(2009.5.31)