新協劇団が第五列と関係ありとされ、解散を命じられるなど、軍部の圧力は演劇などの文化活動にも及んだ。
新協劇団が始めて歌舞伎座で開演するというので、友人と観に行ったのは昭和十五年の暮れ。歌舞伎がハネてから五、六日間の芝居の最終日、大晦日ではなかったか。
藤村の「夜明け前」であった。主人公は滝沢修で、祝言の夏の夜、木曽節を合唱している役者の皆さんが鳥肌だっているのが見えるようだった。あの時の木曽節は今でも耳の底に遺っているようである。
後年、木曽福島で名物のソバを頂戴し、繰り返し木曽節を聞いた時、期せずして歌舞伎座の一夜を思い出した。