昭和九年アメリカから初めて大リーガーがやって来た。ホームラン王のベーブ・ルース、ゲーリッグ、ゲリンジャーなどの有名選手達のチームを迎え打ったのは六大学の選手を中心とする日本チームであったが、物の見事に連戦連敗で、改めて日米の野球の力の差を見せつけられた。私は、中学二年で当時の横浜球場に見に行った。開始数時間前から文字通り立錐の余地もない程スタンドは観客で溢れ、それも立ちっ放し。
試合の始まる前、あれは何と言うのだろう、シャドウ・ボクシングみたいに恰もボールがあるかのように投げたり、打ったりの実にうまいショウをして見せてくれた。
当時の横浜球場は狭かったせいもあるかと思うが、うろ覚えだが、アメリカチームはホームランを十一本打ち、日本チームもつられたかのように三本のホームランを打った。ベーブ・ルースは三本打ったが、回っているレコードの文字を読みとることができたという彼の眼には、止った球を打つように思えたのかもしれなかった。