露天風呂には虫がつきもの。
心地良い朝日を浴びながら
石組みに肘を乗せて寛いでいると
視界の隅っこで蟻が急かせかと動き回っている。
人の至福の時を邪魔する。
指先で跳ね除けてやろうか。
それとも
お湯で流してやろうか。
なんてのは嘘。
自然に心洗われているので、そんな気にはならない。
それどころか
耳は川の流れに傾いたままだけど
目はさっきまで眺めていた緑ではなく
蟻を追っている。
目の前の半径20cmくらいの範囲を行ったり来たり。
一歩間違えるとお湯の大海原だってのに
何を探しているのか?
何処へ行こうとしているのか?
迷ってるようにしか見えないけど
全く迷ってなんかいない。
彼らは全て分かって仕事してるんだよね。
本能のままに
常に目的ありきで行動しているんだろう。
逆に、目的がないと生きていけないのではないか。
もちろん、人間も目的がないと生きていけない。
でも、目的を見つけるのに物凄く悩む。
目的があっても、その過程で物凄く悩む。
蟻の動きを見て
それを自分の心と重ねてしまったのかも。
蟻の黒色が心なしか濃く力強く見えてきた。
僕はお湯に飽きたことにして、サウナに逃げ込む。
そんな雨上がりの爽やかな朝だった。