病院から実家に戻ると、
ほどなくして、
地域の専門員さんと
担当になったケアマネージャーさんが
訪問してくれた。
その場で私は、
今日、病院で検査結果を
聞いてきたこと、
そして
アルツハイマー型認知症と
診断されたことを伝えた。
専門員さんも、
ケアマネージャーさんも、
静かに、真剣な表情で
話を聞いてくれた。
ケアマネージャーさんは、
40代くらいの穏やかな雰囲気の男性。
名札には
「キタ」と書かれていた。
父と母は
その名札を見て、
なぜか嬉しそうに、
「キタさん?
ホイ来たヤジさん、キタさん
」
と、声をそろえてはしゃいだ。
キタさんも、
優しく笑ってくれる。
その空気に、
ふっと心が和んだ。
――この人なら、
相談しやすそうだ。
そう思えて、
胸の奥が少し軽くなった。
専門員さんは途中で退席し、
ここからは
キタさんとの面談が続いた。
両親のこれまでの生活。
母の最近の異変。
先日の、西口での出来事――。
ひとつひとつ丁寧に聞き取りながら、
キタさんは
落ち着いた表情で
うなずいてくれる。
父の話になったとき、
私はこう説明した。
父は、昨年6月まで
団地の管理事務所で
シニアアルバイトをしていたこと。
片道1時間かけて通っていたが、
雨の日に転倒したことや、
足腰の弱りから
通勤が難しくなり、退職したこと。
それから、
母と二人きりの生活が始まり、
今の状態に至っていること。
キタさんは、静かに言った。
「先日の調査結果は
改めてご報告しますが、
おそらく――
お父さまは要支援2、
お母さまは要介護1になると思います」
要介護1の母であれば、
デイサービスは
週4日、5日と通うこともできる。
けれど、
父の要支援2では
利用できる枠が限られていて、
デイサービスは
週2回が限度だという。
私と妹は、
「父と母が、同じペースで、
同じ施設に通えること」
を大切にしたいと思っていた。
別々の日に通うと、
混乱も増えるし、
生活のリズムも整えにくい。
ふたり一緒なら、
まだ安心できる。
だから自然と、
週2回のデイサービス通所
という方向に話はまとまっていった。
キタさんは、うなずきながら言った。
「では、週2回から始めましょう。
無理のないスタートがいいと思います」
その一言に、
私はほっと息をついた。
キタさんは、
すでに二か所のデイサービスの見学を
手配してくれていて、
翌日、両親と一緒に
見学に行くことになった。
「デイサービスの利用は、
何曜日がいいですか?」
そう聞かれると、
父は迷いなく言った。
「木曜日は予定があります
」
キタさんは
「わかりました」と
それ以上深く追及しなかった。
私は心の中で、
そっと苦笑いした。
――実は、
父から口止めされていた。
父の“ロト6の日”。
毎週木曜日、
バスに乗って
駅前の宝くじ売り場へ行き、
ロト6を一口200円、買う。
ときどき母も一緒に行き、
帰りに中華屋で
餃子とラーメンを食べる。
それが、
ふたりのささやかな楽しみだった![]()
(この話は、
キタさんには秘密のまま。)
木曜以外にしよう、
ということで話はまとまり、
見学後に
最終的な曜日を決めることになった。
週2回でも、
外に出れば人と話す。
頭を使う。
刺激になる。
デイサービスなら、
お風呂にも入れてもらえる。
「昨日入った」と言うけれど、
本当かどうか
分からない日もある。
昼ごはんも、
温かい食事が出る。
最近は
「あんぱんとお稲荷さん」ばかりだと知り、
私はずっと心配していた。
いいデイサービスだといいな。
少しだけ、
期待が生まれた。
「明日、また来るね」
そう言って実家をあとにしながら、
私は
不安と希望が入り混じった気持ちで、
家路についた。
※週2回から始める。
それは、小さな一歩だけれど、
確かな前進だった。
読んでくださって、ありがとうございました🍀