それにしても、北朝鮮は上手い方法を思いついたものだ。
実行犯が素手で毒物を扱っているために、それがVXだとは誰も思わない。
そのため初期の段階での処置が遅れてしまった。
被害者本人が神経剤での暗殺を警戒してアトロピンを持ち歩いていたにも関わらず、それが使われることなく死亡してしまった。
ましてやマレーシアの空港の医療スタッフなど、何が起こっているのか全く見当もつかないままだったのだろう。
オウムの場合、1990年代前半でVXに関連した化学物質の購入は、すでに困難であったらしい。
そして、その購入記録や設備から、サリンやVXの各事件がオウムの犯行である事の確定的な証拠となっている。
マレーシア国内でVXを合成しようとすると同様の困難があり、北朝鮮は少量の前駆体のみをマレーシアに持ち込み犯行に及んだと考えられる。
改めて思うのは、本当に中川は優秀だという事だ。
現代化学8月号の記事が、英文で書かれた論文と同じものなのかどうかは分からないが、その内容はとても分かりやすい。
世界中の化学者・専門家と言われる人たちが、被害者がVXで死亡しているにもかかわらず実行犯は素手で触っても何ともなかったのか、誰もその答えを出せなかった。
中川は拘置所の狭い檻の中で、到底恵まれているとは言えない環境で、誰もが納得できる答えを導き出して見せた。
素晴らしいとしか言いようがない。