第二段階
亜リン酸トリメチルにヨウ素を加えて反応させる。
松本サリン事件では、この第二段階から製造を始めている。
前に書いたように、三塩化リンと亜リン酸トリメチルは値段が同じと言っていい。
値段が同じなら、一段階進んだところから始めるのが合理的である。
サリン製造の流れを見ていくと、第二段階からでは分からないが、第一段階からだと面白いことに気付く。
第一段階で使用する三塩化リンは、リンに塩素が結びついたものである。
その塩素をメチル基と置き換え、一旦は全部取り除いておきながら、第三段階ではメチル基をもう一度塩素に置き換えている。
なぜこんな作業を行っているのかと言えば、それはおそらく目的とするものが、メチル基を一つだけ二つに切り分け、酸素の二重結合を作り出すことにあるのだと思う。
リンは三本の手を持っている。
つまり、三つの共有電子対と、一つの非共有電子対を持つ。
そのひとつだけある非共有電子対に、酸素の二重結合を作り出しているのだ。
この部分は、サリンもVXも同じ構造をしている。
有機リン系の毒物はいくつかあるが、この部分は、最も恐ろしい毒性を持たせることに成功した、まさに悪魔の発明と言っていいのかもしれない。
本来であれば、リンは三本の手しか持っていない。
それを四本にすることで凄まじいまでの殺傷力を持たせてしまった。
こんな事を考え付くのは、まさしくマッドサイエンティストと言っていいのではないだろうか。