【AVATAR治療最前線】


「お前はクズだ」

「役立たずだ」

「いない方がいい」


このようなひどい言葉が、

統合失調症患者の若い女性に

浴びせかけられている状況。



それは、現実世界での人間ではなく

コンピュータ画面に向かって

「アバター」と呼ばれる分身が、

手加減なしに非難してくるものです。



「あっちへ行ってくれない?」

最初はおどおど頼む女性でしたが、

しばらくすると勇気を持って

力強く言い切ることにします。


「あなたの言うことなんか、

もう聞かない!」



実はこれらのやり取りは、

「声が聞こえる」という幻聴がある

統合失調症患者のためになされた、

英国のロンドンとマンチェスター

の研究者グループが開発したという

革新的治療法の一幕でした。


研究チームの報告によると、

この治療法にはある一定の効果が

期待できるということです。



 英国の精神医学専門誌である

ランセット・サイキアトリー

(Lancet Psychiatry)に発表された

研究論文によれば、このような

「アバター治療」を試験的に

3か月間受けた75人のうち7の人が、

「完全に声が聞こえなくなった」

とのことです。




 論文の主執筆者である

ロンドン大学キングスカレッジ

(King's College London)の

トム・クレイグ(Tom Craig)教授は、

全ての被験者において

「声に関連して感じる苦痛、

1日のうちで声が聞こえる回数、

声に圧倒される感覚の程度などが

実に大幅かつ有意に減少した」

と説明しました。



「アバター療法」の代わりに

カウンセリングによる治療を受けた

比較群として選ばれた75人のうちで、

幻聴が止まったと答えたのは

わずかに2人だけだったそうです。


 統合失調症患者の約3分の2が

「声」とともに生きており、

想像上の人物が自分に対して

「話しかけ」てきています。


通常は、患者に対して侮辱したり

脅かしてきたりするそうです。



クレイグ氏によると、それは

「恐ろしく苦痛」な状態だと語られます。


大半の患者は、

その声を支配的で全能

とさえ感じ、それに比べて

自分は劣っていて無力だ

と感じるそうです。



 研究によると、大半の患者は

薬で症状が緩和されるが、

約25%の患者には声が聞こえ続け、

平均して3種類か4種類の声が

聞こえるということです。


「アバター療法」では、

中でもとりわけ患者にとって

最大の苦痛となっている「声」と、

その「声の主」だと患者が想像する

顔を用いてアバターを作成します。


声音や口調、言葉遣いまで、

そのような「声」を再現した

アバターと患者を50分ずつ

6回にわたって対面させました。


対面中は別室にいる療法士が

マイクを使って患者をサポート。


「今の対応はいいね。

でも、もうちょっと強く

言ってみてくれないか?

背を伸ばして、相手を見て、

あっちへ行けと言ってみよう」


などと言って励まします。

治療が進むにつれて、患者は

自分から強く主張できるようになり、

やがてアバターの方も、

患者の強さを認めるようになります。



「一連の経験によって、

何か非常に恐ろしいものが

自分でコントロールできるものに

変わっていく」

とクレイグ教授は説明しています。