次世代燃料と言われている水素。
最近は特に、水素を使った燃料電池自動車が一般に販売され始めたこともあり、燃料としての水素に関心が高まっています。
現在、日本政府は国をあげての取り組みとして、「水素社会の推進」に対して寛容な姿勢を見せています。
今年の初めになってからも、TOYOTA自動車が世界に先駆けて発売した燃料電池車(FCV)である「MIRAI」を、首相官邸及び経済産業省、国土交通省、環境省に公用車として導入しました。
さらにまた、4月10日に催された「総合科学技術・イノベーション会議」においても、そこでは2020年に開催が予定されているオリンピック年に向けての指針が発表されました。
『東京オリンピック・パラリンピックまでに、国内の水素インフラを整備する』ということが明言されています。
『水素エネルギーシステムを構築することによって、将来訪れるであろう「水素社会」としての日本の姿を世界に向けて発信する』
という方針を公けに開示している模様です。
それに対して、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、「新エネルギー白書」の中で試算した水素エネルギーの経済効果は、2030年に1兆円程度、2050年には8兆円となっています。
また、日経BPクリーンテック研究所の予測によると、『世界の水素インフラの市場規模は2030年には40兆円、2050年には160兆円にまで膨らむであろう』などとされています。
TOYOTA自動車だけでなく、本田技研工業もまた、2016年3月に行われる北米国際自動車ショーにおいて、燃料電池車を発売することを発表しています。
ほかにもNISSANの方では、こちらもまた、ダイムラーAG、フォードと共に燃料電池システムの共同開発を進めていて、早ければ2017年には手ごろな価格帯での量産型FCEVを一般発売する予定を公表しています。
価格やデザインの選択肢が広がれば、燃料電池車FCVの普及は一気に加速するでしょう。
水素ビジネスにおけるチャンスの到来は、もちろん完成車だけには留まりません。
水素ステーション関連などでは、2014年に日本初の商用水素ステーションをオープンした岩谷産業や、
移動できるコンパクトなパッケージ型水素ステーション「ハイドロ シャトル」で注目される太陽日酸、
さらには全国のENEOS約1万1000店舗での水素供給を目論むJXホールディングスなど、
水素ステーションの関連企業は、今もなお盛り上がりを見せ続けています。
他にも、燃料電池用水素を圧縮するために必要な基幹部品を製造する加地テックや、
燃料電池セパレータ用チタン材などを扱う神戸製鋼所など、
部品・材料メーカーも大きな恩恵を受けることになるだろうと予測されます。
TOYOTAの水素燃料電池自動車「MIRAI」だけをとってみても、専用の基幹部品に関わるメーカーはとても多く、関連業界はその恩恵に預かることになります。
例えば、防振ゴム・ホース・ウレタンなど自動車用部品の製造・販売を行う住友理工も、これまで同社が培ってきた独自の技術を次世代インフラに活かしている企業の一つです。
同社が昨年末に開発を発表した「セル用ガスケット」は、燃料電池内で水素と酸素の流路を保ち、生成された水の排水性を高めるゴム製のシール部材。
同社の誇る高分子材料技術が生み出した高機能ゴムによって幅広い温度範囲で長期シール性を実現し、自動車用防振ゴムなどの製品開発で培った精密加工技術を融合して、「MIRAI」に最適な信頼性の高いシール部材の製品開発に成功しているということです。
ちなみにトヨタは、発売1か月の国内受注台数が好調なことや、今秋からは米国や欧州でも販売を開始することを踏まえて、「MIRAI」の年間販売台数を2015年の700台から16年は2000台程度、さらに17年は3000台程度にまで拡大するということを発表しています。
住友理工でも、4月には「住理工FCシール株式会社」を新たに設立し、生産増に対応する環境を整えているようです。
2020年の東京オリンピックは、世界的なスポーツの祭典であると同時に、日本という国の独自性として、日本の誇る産業技術を世界に発信できる又とない機会とも言えます。
20年までに水素ステーションをはじめとする国内の水素インフラが整っていれば、次世代自動車の世界シェアを獲得するための大きな追い風となるのは間違いないと言われます。
水素社会の幕開けとともに、日本経済の夜明けも近づいているのではないでしょうか。



