松任谷由実
(まつとうや ゆみ)
1954年、東京都出身。
映画「風立ちぬ」主題歌の「ひこうき雲」は、1973年に発売された同名のデビューアルバムに収録されている。
宮崎駿監督の新作アニメーション映画「風立ちぬ」が公開中だ。主題歌は荒井由実(松任谷由実)さんの「ひこうき雲」。
二つの希有な才能の出会いは映画にどんな息吹を吹き込んだのか。そして、時代の最前線を走り続けてきたクリエイターとして感じたこととは――
松任谷由実さんに聞いた。
◇――思い起こせば、昨年12月9日。『魔女の宅急便』のブルーレイ発売記念イベントでスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーから「ひこうき雲」を映画で使わせてほしいという提案が突然あったわけですが。
松任谷 びっくりして何が起こったのかよく分からなかったですね。
タイミングがタイミングだけにイメージソングとかそういうことなのかな、と。
まさか主題歌とは。
◇――宮崎監督が新作を制作していることすら発表されていなかった時ですよね。
実際に映画が出来上がってみると、
まさに『風立ちぬ』のために書かれた曲のように聴こえました。
松任谷 シンクロニシティですよね。
ジブリ作品と自分の曲には通じるものがあると思っているんです。
さまざまな風、さまざまな雨。懐かしい、新しい。不思議な風景、夢の中での既視感。
◇――ジブリ作品との最初の出会いは?
松任谷 『風の谷のナウシカ』(1984年)です。
友達から薦められて、ロードショーも終わりかけの頃、映画館に行きました。そうしたら観たことないもの観ちゃったってすごい感動して。
ああいう作品に心が動かされるということは、自分の中に共通する要素があったからだと思うんです。
◇――時を経て『魔女の宅急便』(89年)で、「やさしさに包まれたなら」と「ルージュの伝言」が挿入歌になりましたね。
松任谷 当初は書き下ろしをお願いされていたんですが、なかなかうまくいかず、時間切れになってしまったんです。
そうしたらあの2曲を使いたいというお話をいただき、ほっとしたというのが素直な気持ちでした(笑)。
でも正直言うと『魔女の宅急便』を完成直後に観た時は今回の「ひこうき雲」のような世界観との一致は感じなかったんです。
それが昨年末のイベントの前にもう一度じっくり観たら、「うわ、なんて合っているんだ」って驚いた。
特に「やさしさに包まれたなら」は曲や歌詞の展開と映像が驚くほど連動していて、時を超えて、世代を超えて、この曲を受け入れてもらえている秘密が分かりました。
◇ ――そして今回、『風立ちぬ』で宮崎作品と再会する。
「ひこうき雲」は40年前にリリースされた同名のデビューアルバムに収録された曲ですが、どういうきっかけで作られたのですか。
松任谷 16歳の時、小学校時代のクラスメートが亡くなったんです。
お葬式の知らせがきて、お宅に伺ったら遺影の印象がすごく強かった。
不思議な感覚でした。本当にこの子だったんだろうかって。
早くして亡くなるとはどういうことなんだろうかと、その時に感じた気持ちを自分なりに残しておきたいと思ったんです。
