アルファリオン ⑤
もっとシンプル、
そしてエネルギッシュに。



彼方から、此方へ。

かなたから、こなたへ。

とどまることもなく、
寄せては返す波の音。

その響きはいつも、
あちらから、こちらへ。

そしてそれはまた、
こちらから、あちらへ。





人間は、より高い次元へと
自分自身の存在を高めようとする。

彼岸にて、人の理想を待ち受けるものは、
純粋な信念をこそ、現実とみなす。

善には善をむくい、
悪に対しては悪でかえす。

この天地自然、宇宙万物一切には、
世界が創造された最初から、

誰にも曲げられない
法則が存在している。





神様が、本当にこの世にいるのならば、
何故にこんなに辛く苦しく悲しいのかと、

人は生まれながらに煩悶し、苦悩し、
彼岸を見ることもせずにつぶやく。


僕にとって、あちら側の世界も、
こちら側の現実も、

どちらも同じく生活の一部、
日常の一環だと思い、感じていた。


そして今、思いがけなく僕は、
かの彼岸に触れる機会を得た。







好きな歌を、
好きなだけ歌えるしあわせ。


だれに迷惑をかけることなく、
だれに嫌悪されることもない。


しかもなおかつ、
共感してくれる人までいる。







少女は綺麗なひとみをしていて、
シンプルな発言で僕の心を揺らす。



しかしそれでも、僕にとって、
平穏無事は長続きしてはくれなかった。



至近距離から、致命的ではないものの、
かなりの威力を伴った直撃弾をくらう。


「あなたにとって、
しあわせってなにかしら?」


「しあわせ?」




不意をつかれて驚いたものの、
大した衝撃だとは思わなかった。


変わったことを
聞きたがるんだな。


最初のうちは、
そう思っていた。




僕にとってのしあわせって、
いったいなんなんだろうか。




海の水に癒されて、 
潮の香りに元気づけられ、


心地良い幸せな時を
すごしている最中に、


しあわせとはなにかを、
急に問いかけられる。


少しとまどい、
ためらってしまう。


しかしそれでも、
冷静さを維持し続ける。


衝撃的な展開などない。
平常心と不動心は揺らがない。






思いがけなく問い詰められて、
どうして良いか、返答に困るだけだ…。







「まあ、あえていうなら、
やましさのないことかな。

嫌な、悪いことがないのが、
実は本当の意味で、人にとっては
最高にしあわせなのかもしれない。」






自分で発言した内容が、
あまりにもありふれた、


当たり障りない発言なため、
何を言っているのか、


自分で自分自身が
分からなくなるような、


不思議でおかしな
錯覚におちいりそうになる。


どうした平常心、
なにやってんだ不動心。



何を言うんだよ、
まったく。








「嫌悪感・・・・。」






少女と話していて気付いたのは、
その見かけの幼なさによらず、


彼女があまりにも大人びた
精神の持ち主であるということ。


嫌悪感というそのたった一言で、
罪悪感までもが、津波の如くに、



僕の心に
押し寄せてくる…。



「なんだよその、
嫌悪感って。」




言葉にだしてみたところで、
嫌悪感はなくならなかった。


罪悪感もまだ消えてはいない。
あえて言わなきゃ良かったんだ。




せっかくのしあわせが、
この上ないしあわせが、


心ない言葉によって、
押し流されてしまう…。




人間はやっぱり、
シンプルに生きないとな。




それにもまして、
エネルギッシュな人生を。


情熱の心があれば、
ほかはあとからついてくる。




一生懸命な姿勢は、
誠心誠意な努力は、


今はなかなか大変でも、
やがて果報に巡り会える。




この人間の世界は、
現象だけにとらわれるな。


意志の中に、
つまり心の奥深く、

意識の在り方や、
思考の成り立ちに、


真実のしあわせを
見出すんだぞと。



そうだろ?
そう言いたいんだろ?


心の炎を熱く燃やして、
此の世を照らし出す光となれよと。



情熱の心を全開に、
真実の愛を無限大に。




「しあわせってね、
ただ単に、しあわせに
なりたいからなるのよ。
それが人の生き方なの。」



「あ、ああ、そうだね。
わかってはいるんだよ・・・。」


君の言いたいことは、
よくわかるつもりだ。


僕には邪念がまだ多いのかな。
君の無邪気さが、正直つらいよ。


単純になって物事にとりくみ、
素朴な気持ちで世界を見ろと。


純粋な信念こそが
理想を実現させると、


たぶんおそらく、
君はそれを伝えたいのだろう。







人はみな、
水から生まれる。


赤ちゃんは、
お母さんの羊水に育まれる。


水の本質は、
人にとっての構成要素。



天地万物を創造している
神の命の実体は、愛の心。



子どもを生み、養い育てる
親の心のいつくしみそのものだから。



人間が水に浸かり、
心や体が癒される時、



そこにはかつていた
魂の故郷がある。


彼岸と此の世を、水が
わけへだてるんじゃなくて、


水の本質、水の実体そのものこそが、
彼岸、すなわちあちら側の世界だ。


お風呂に入ったり、プールや海、
河川や温泉、銭湯でも癒される。


とてもしあわせな、
極楽天国の気分に浸れる。


人はみな、
天国から生まれてきた。


だからこそ、人はみな、
天国に帰りたがる。



愛と平和としあわせの国へ。





長い間、およぎ続け、
海から陸地にあがり、


ふたたびはるかなる
水平線を見渡す時、



あちらの世界とこちらの世界は、
一つに結ぶことが可能だと知る。







「なぎさ。」






君の名前を僕は呼ぶ。
だれはばかることなく。



新生された世界である
アルファリオンへの道は、



これから始まる
新しい未来の物語だ。