封印された宝石

第三話


『星降る空のプラットホーム』





『星空宇宙大学病院』

という、いかにもここに来てねと言わんばかりの大きな看板が、汽車の窓からよく見える。



これはいったい、どういう罰ゲームなんだろうか。




汽車を降りるとすぐ、駅のトイレを探す。
なぜかどうもトイレが近い。



前の駅でとてもおいしいスープを飲んでいたのだが、一人で飲むには量が多く、二人分くらいはあった。
あまりおなかはすいてなかったが、雪の寒さから身体をあたためるものを求め、売店であたたかい飲み物を見つけて飲んでいたのだ。



わりとこぎれいにしている公衆トイレで用をたしながら、もう一度じっくり考えてしまう。




どんな罰ゲームだよ。




あるいは誰かの嫌がらせだろうか。


いや、そういう考え自体、とてもよろしくない。


そもそも、スパークリング医師に自分の力で問題を解決しろと言われた時から、少しおかしなことになってしまっている気がする。



心があわてふためき、いらいらそわそわしている自分を情けなく思ってしまう。



オレって、こんなにみじめな喜劇役者だったんだろうか。





医者さえ呼べばなんとかしてくれるなんて、甘い考えだった。



でも、誰も嫌がらせなんてしてはいない。そんなことするわけがない。する意味もない。



すべてがてんやわんや的な大きな騒動になってから、プラカードか何かをかかえた芸人さんが出てきて、

『いやー、実はドッキリ企画だったんですよ!』

みたいな感じのイメージをワクワクドキドキしながら思い描いてしまったら、本当にそういうふざけた状況を引き寄せてしまわないともかぎらない。






落ち着け、落ち着くんだ。





どうしたんだよ、いつものハッピー・ラッキー・スマイリーらしくないじゃないか。





もう一度、プラットホームに戻り、きれいな星空をながめる。




ついさっきまで雪が降っていて、まわり一面が真っ白な白銀の世界だったのに。


満天の星空じゃん。



こんなにきれいな星空は、めったに見られるものではない。




これじゃプラットホームというよりプラネタリウムだ。



ひとしきり星空をながめてみてから気がついた。




ここって、もうすでに病院の敷地内じゃないの?





僕がトイレで用をたしてる間に、この駅で降りた乗客たちは病院へ行ったのだろう。



列車はいつのまにか、もう出発してしまったらしく、その姿は消えていた。







本当の幸せは、かなり大変な思いをしてつかみとらないといけないという話だ。


でも実は、難しく考えなくても、すごく簡単に手に入るものなんだよね。



いやむしろ、幸せを手に入れることは、本当はとても簡単でとてもやさしいことだと思っていなければならないんだ。



頭で色々考えてしまうと、かえってわけがわからないことになってしまったり、眠たくなってしまったり、周りがみえなくなったり、家で毛布にくるまったり、とにかく大変なまったりモードになるのだという。




まったく、おかしなことになってしまった。

さっきから、大事なことでもないのに、同じようなことを繰り返しつぶやいているかもしれない。




まずい。このままでは本当にそういうおかしなことを引き寄せてしまう。







あたりをみまわしてみても、ほとんど人影はない。


みんなそれぞれ自分の目的達成をめざして、迅速に活動しているんだ。もたもたしている人なんかいない。自分も早いとこ用件をすませて帰らないといけない。





自分の問題は自分で解決するのですよ、か。






大変なことになったな。


大変な思いをしてつかむ幸せとは、自分の願う理想を実現させるということが、とても簡単だと信じられるようにならないといけないことなんだよな。


そのためには、自分で自分自身を信じてあげられるように、心を豊かに保つことだ。




わかったつもりなんだが、まだまだそれができない。

いや、できないんじゃない。
できないんじゃなくて、今からできるようになろうとしてがんばっているんだ。

この世に生きるってことは、無理とわかっていてもやらないといけないこともあるし、無茶とわかっていてもやめられないことだってあるんだ。



ただ、本物の幸せってやつは、すぐに消え去るものじゃないんだ。




いつまでも、最高に光り輝き続けるもの。



星空の世界を一人、プラットホームから出て、病院の看板の方へ向かう。






人の心の美しさというものは、愛と命の中でいろどられ、いつまでも永遠に形作られるものなんだよ。



ふと立ち止まり、思わずため息をついてしまった。


ネガティブになってはいけない。




君や僕のこの小さなひとかけらの息吹きであっても、永遠に無限に生きて美しく輝く大きな愛の一部分なんだよ。






看板をめざして、ふたたび僕は歩きはじめる。




『星空宇宙大学病院』



まったく。



思わずまた否定的なイメージを浮かべそうになりながら、気持ちをきりかえてみる。




どんな素敵なストーリー展開が待っているのかな!






世の中は、無理とわかっていてもやらないといけないこともあるんだ。






TO BE CONTINUE.......