タカラマミーヤココは、コーヒーを淹れようと台所に向かい、戸棚を開くと、
コーヒーの粉が入っている容器を手に取りました。
やけに軽いな、と思いながら蓋を開けると・・・空っぽでした。
『ありゃ、コーヒー切らしちまったね。しょうがない、紅茶でも…』
と、次は紅茶の入れ物を手に取り、蓋を開けます。が・・・、また空っぽ。
『なんだい、紅茶もないのかい』
ヤココはおかしくなって、くすくすと笑い始めました。
『緑茶も切らしてるなんてことは、さすがにないよねぇ』
笑ながら、緑茶の筒の蓋をスポッと開けてみます。
『あーっはっはっはっは、こりゃたまげた。緑茶も空っぽときた!』
とても楽しそうです。笑
『買い物にいくしかなさそうだね。とりあえず、あったかいお湯でも飲んで、支度するか』
そういって、お金を入れている引き出しを開けると、、、
五円玉がひとつ。一円玉がみっつ。ほこりが、すこし。
ヤココは目をまんまるくして、それから、にっこりと笑いました。
『なんてことだろうね、なにもかも、きれいさっぱり無くなって、気持ちいいじゃないか』
それから、ううぅ~んと、伸びをすると、
『そういえば、マロばぶの産んだ宝石や純金が結構たまってたね。。。まずは、平さんのとこで少しお金に変えてもらって、それから買い物するとするか。』
そう言って、おでかけ用の服に着替え、髪を梳かし、お気に入りの帽子をかぶりました。
ところで、“平さん”とは誰のことでしょうか。
お話を進める前に、少し説明しておきましょう。
“平さん”こと、“和三盆平八郎”は、ヤココの小さなお城がある山の麓の町で「喫茶店」と「宝石屋」を営む、ヤココの親友です。
とても優しくおおらかで、前向きな性格で、ヤココをはじめ、急須の魔人Tやマロばぶ、オカメちゃんのことも理解し、あたたかく見守り、いつも協力してくれる存在です。
平八郎の淹れるコーヒーは絶品で、密かに人気を集めていて、あちこちに平さんコーヒーのファンが点在しています。
そして、平八郎のもう一つの顔が「宝石屋」。
宝石や、天然石が大好きで、喫茶店の仕事の傍ら長年続けるうちに、平八郎の人柄と、誠実な仕事が高く評価され、今となっては富豪・セレブ・VIPたちから人気の宝石商です。
マロばぶの産んだ美しい宝石や天然石、純金、そしてオカメちゃんが持って帰ってきたお宝の数々を、
お金持ちのみなさんに売って、お金に変えてくれるのが平八郎なのです。
出かける前に、ヤココはマロばぶに声をかけます。
…というのも、極度のマザコン猫のマロばぶ、知らぬ間にヤココが姿を消すとパニックになり、
大声で叫びまわるので、近隣のみなさんを大変驚かせてしまうのです。
近隣ってあなた、ヤココのお城は山の中にあるのに…と思ったでしょう。
それはそうなのですが、マロばぶがヤココを呼ぶ『ニャアアアアアン!!!!!』の声の大きいことときたら…山の麓の町一帯に響き渡るほどなんですから。
そんなことがあってから、タカラマミーヤココはマロばぶには必ず声をかけてから、出かけるようになったのです。
『マロばぶ、平さんのお店と、買い物に行くよ。あんたも来るかい』
『・・・!ワン!!!』
マロばぶは、“平さん”と聞くと、耳としっぽをピン!と立てて、嬉々として返事をしました。
あまりに嬉しい時、マロばぶは猫であることを忘れて、犬のように「ワン!」と鳴きます。笑
いつも優しくて、“美味しい食事”(気分のよくなるような前向きな思考)を提供してくれる平八郎のことが、大好きなマロばぶなのでした。
『じゃあ、行こう。帰りは少し重くなるかもしれないけど、がんばってちょうだいよ』
ふたりは、急須の魔人Tの存在をすっかり忘れて、ウキウキと出かけていきました。。。笑
☆
カランカラーン…♪
平八郎の喫茶店の年季が入ったドアを開けると、いつも一番にこの音が迎えてくれます。
その音を聞いて、カウンターの向こうで大きな茶箪笥に向かい、ティーカップを磨いていた平八郎が店のドアに振り返り、ヤココたちの姿を見るとにっこり笑顔になりました。
『ヤコちゃん、マロちゃん、いらっしゃい!』
その柔らかい声を聞き終わらないうちにマロばぶが超特急で平八郎に飛びつきます。
『わああ、、っとと、マロちゃん、今日も激しいねぇ』
平八郎は毎度のことながらも驚きながら、ニコニコと笑って、ゴロゴロと喉を鳴らして喜ぶマロばぶを撫でました。
『ははは、毎度すまないねぇ、平さん。マロばぶはあんたが大のお気に入りなんだ。許してやっておくれ』
ヤココはいつものように、お気楽に笑って言います。
『いいんだよ、こんな風に好いてもらえるのは本当に嬉しいんだ、なー、マロちゃんよ、ありがとな』
ヤココに返事をしながら、マロばぶに話しかける平八郎。
そのようすを微笑ましく見つめながら、ヤココはカウンターにドサッと大きな袋を出します。
『今日は、これをお願いしに来たんだ』
『おおぅ、ヤコちゃん、今回はまた、えらくため込んだね。』
『ああ、そうなんだ。おかげで、コーヒーも紅茶も緑茶もお金も綺麗さっぱり切らしちまっててね』
『ハッハッハ、それで、うちも品薄になるわけだ。ヤコちゃんたち、久しく来なかったから』
ヤココの話を聞いて、平八郎は気持ちよく笑いながら言いました。
『そんなに来てないのかねぇ。…じゃ、今回はこれとこれにしよう』
そう言って、ヤココは持ってきた袋の中から、直感で2つ美しい宝石と天然石を選び取り出して、
平八郎に差し出しました。
『これが売れた分をあんたの手数料としてもらっとくれ』
『これは………こんなに、いいのかい』
平八郎は、ヤココに差し出された宝石と天然石を、真っ白の手袋をして手に取ると、即座に言いました。
長年の勘でかなりの高値がつくことが予想できたからです。
『いいぐらいじゃないよ、あんたが売ってくれなきゃ、何の役にも立たないし、あたしらも何も買えないんだ。助かってんだよ、感謝してんだ、気持ちだよ、受け取っとくれ』
遠慮する平八郎に、ヤココが気持ちを込めて言います。
『それにね、マロばぶは生きてる限りずっと、宝石や純金を生み出し続けるんだ。これで終わりじゃない。…まぁ、ケツの穴からだけどね、ハーッハッハッハッハ!』
ヤココの大笑いにつられて、平八郎も大笑いしながら、涙ぐんで言いました。
『ありがとよぉ…ヤコちゃん。助かるよ』
ずずっと鼻をすすりながら、嬉しそうに微笑みました。
『実はよ、孫が大学入学でな、ちと入り用でなぁ』
それを聞いたヤココは驚くと、
『なに!あんたんとこの孫、もうそんな年になったのかい!そりゃおめでとう。それじゃ…』
そう言うと、ヤココは袋の中からまたひとつ、大きな純金の塊を取り出して言いました。
『これは、あんたの孫への入学祝だ。いくらになるか分かんないけど、これを売った分をお祝いにさせとくれ』
『えぇ!?いいよ、ヤコちゃん、さっきのでもう十分すぎるくらいなんだ、もらいすぎだ!』
そう言って、純金の塊を袋の中に戻そうとします。
その手を止めて、ヤココが真っすぐに平八郎の目を見てピシッと言い放ちます。
『いーーーんだよ、こういう時は、しのごの言わず受け取るんだよ』
『…ヤコちゃん、ありがとな、ほんと、ありがとう』
そう言いながら、ヤココの気持ちに感動してポロポロと涙を流す平八郎。
すかさず、マロばぶが平八郎の顔を舐めて、またゴロゴロと喉を鳴らしています。
泣かないで、と元気づけているのでしょうか。
『あはは、マロちゃんも、ありがと、ありがとな』
そう言いながら、大切そうに、もらった宝石と天然石、純金の塊を箱の中に仕舞いました。
『それじゃ、遠慮なくこちらは頂戴するよ。…そういや、まだコーヒーも出してなかったな、すぐ淹れるから少し待ってな』
また鼻をずずっとすすって、平八郎は美味しいコーヒーを淹れました。
店内に素晴らしい香りが立ち込めます。
ヤココはうっとりと香りを味わい、マロばぶも宙に鼻を泳がせながら、すんすん、と匂いを嗅いでいます。
『おまたせ。』
コト、と優しくコーヒーカップが置かれた音でヤココは閉じていた目を開きます。
『ありがとう、いただくよ』
ヤココはまたうっとりとコーヒーの香りを味わってから、丁寧にカップに口をつけました。
『うーーーん、やっぱり平さんのコーヒーが一番おいしいね』
そう言ってにっこり笑いました。平八郎も嬉しそうに笑うと、
『そうかい。そりゃ良かったよ。そんじゃ、今日の分、鑑定してくるよ』
そう言って、大きな袋と宝物が入った箱を用心深く抱えて、奥の部屋へ行きました。
☆☆☆つづく☆☆☆