MST

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MST(Multiple Spanning Tree) は、IEEE 802.1s 規格に基づいて定義されたスパニングツリープロトコルの一種で、複数の VLAN を効率的に管理し、ループを防ぐためのプロトコルです。MST は、既存の STP(Spanning Tree Protocol)や RSTP(Rapid Spanning Tree Protocol)を拡張して、複数の VLAN をひとまとめにして管理することで、スイッチ間の冗長リンクを効果的に活用し、ネットワーク全体の負荷分散やパフォーマンスを向上させます。

以下では、MST の概要、動作の仕組み、他の STP プロトコルとの違い、メリット・デメリット、設定方法、注意点について詳しく説明します。

1. MST の概要

1.1. MST とは?

  • MST(Multiple Spanning Tree) は、1 つのスパニングツリーインスタンスで複数の VLAN を管理できるように設計されたスパニングツリープロトコルです。
  • 従来の STP では、すべての VLAN が 1 つのスパニングツリーで管理されるため、冗長リンクをうまく活用できず、リンクが未使用(ブロッキング状態)になることが多くありました。
  • MST では、複数の VLAN をグループ化して 1 つの MST インスタンス(MSTI: MST Instance)として管理することができるため、ネットワークの効率化と負荷分散が可能になります。

1.2. STP と RSTP の概要と制約

  1. STP(Spanning Tree Protocol):

    • IEEE 802.1D 規格に基づくプロトコルで、LAN 内のネットワークループを防ぐために使用されます。
    • STP では、すべての VLAN が 1 つのスパニングツリーインスタンスで管理されるため、ネットワーク内の冗長リンクがブロッキングされ、負荷分散ができません。
  2. RSTP(Rapid Spanning Tree Protocol):

    • IEEE 802.1w 規格に基づくプロトコルで、STP を改良し、ネットワークの収束時間(ループの検出・修復にかかる時間)を短縮したものです。
    • RSTP も STP と同様に、すべての VLAN が 1 つのスパニングツリーインスタンスで管理されるため、リンクの活用効率が低いという課題があります。

1.3. MST の特徴と利点

MST は、複数のスパニングツリーインスタンスを作成し、VLAN を各インスタンスにマッピングすることで、従来の STP や RSTP の課題を解決します。

  • 複数のスパニングツリーインスタンスの管理:

    • MST では、ネットワーク内に複数の MST インスタンス(MSTI)を作成できます。
    • 各 MSTI に対して異なる VLAN をマッピングすることで、冗長リンクを有効に活用し、負荷分散を実現できます。
  • 効率的な冗長リンクの活用:

    • 異なる MSTI 間で異なる経路を選択することができるため、複数の冗長リンクを積極的に活用し、トラフィックの負荷分散を行います。
  • ループ防止と高速な収束時間:

    • MST は、RSTP の仕組みをベースにしているため、ネットワークの収束時間が短く、ループ防止と高速な障害回復が可能です。
  • スケーラビリティの向上:

    • 複数の VLAN を効率的に管理することで、ネットワークのスケーラビリティが向上し、大規模なネットワーク環境に適した構成が可能です。

1.4. MST の用語

  • MST リージョン(MST Region):

    • 同じ MST インスタンスと VLAN マッピングを持つスイッチのグループを「MST リージョン」と呼びます。
    • MST リージョン内のすべてのスイッチは、同じ「リージョン名」「バージョン番号」「VLAN-to-Instance マッピングテーブル」を共有している必要があります。
  • CST(Common Spanning Tree):

    • MST リージョン全体をカバーする単一のスパニングツリーで、すべての MST リージョンを接続する役割を果たします。
    • すべての MST リージョンが CST の一部として動作し、リージョン間のループ防止を行います。
  • IST(Internal Spanning Tree):

    • MST リージョン内のデフォルトスパニングツリーインスタンスで、MST インスタンス 0(MSTI 0)として動作します。
    • IST は、MST リージョンの全体を代表し、他のリージョンやスイッチと連携してループ防止を行います。

2. MST と他の STP プロトコルとの比較

3. MST の設定方法

以下に、Cisco スイッチで MST を設定する手順を示します。

3.1. 基本設定手順

  1. MST モードの有効化

bash

 

Switch(config)# spanning-tree mode mst

  • スパニングツリープロトコルの動作モードを MST に設定します。
  1. MST リージョンの設定

bash

 

Switch(config)# spanning-tree mst configuration 

 

Switch(config-mst)# name MyRegion 

! リージョン名を設定(すべてのスイッチで一致させる) 

 

Switch(config-mst)# revision 1 

! リビジョン番号を設定(すべてのスイッチで一致させる) 

 

Switch(config-mst)# instance 1 vlan 10 

! MST インスタンス 1 に VLAN 10 を割り当て 

 

Switch(config-mst)# instance 2 vlan 20 

! MST インスタンス 2 に VLAN 20 を割り当て 

 

Switch(config-mst)# exit

  • spanning-tree mst configuration モードに入り、リージョン名、リビジョン番号、および VLAN のインスタンスマッピングを設定します。
  1. MST インターフェース設定

各ポートに対して、MST モードを適用し、ポートを適切な役割(例: トランクポート)に設定します。

 

bash

 

Switch(config)# interface GigabitEthernet0/1 

Switch(config-if)# switchport mode trunk 

Switch(config-if)# spanning-tree mst 0 port-priority 16 

Switch(config-if)# spanning-tree mst 1 port-priority 32 

Switch(config-if)# spanning-tree mst 2 port-priority 48

  • 各 MST インスタンスに対してポートの優先度を設定し、パスコストやブリッジ ID の設定を行います。
  1. 設定の確認

MST 設定を確認するには、以下のコマンドを使用します。

 

bash

 

Switch# show spanning-tree mst

出力例:

 

arduino

 

MST00 is executing the mstp compatible Spanning Tree protocol

 Bridge Identifier has priority 32768, address 001e.4a6f.72c0

 Configured hello time 2, forward delay 15, max age 20, max hops 20

 Root bridge for: MST00 

 

MST01 is executing the mstp compatible Spanning Tree protocol 

Bridge Identifier has priority 32768, address 001e.4a6f.72c1 

Configured hello time 2, forward delay 15, max age 20, max hops 20 

Root bridge for: MST01 

 

MST02 is executing the mstp compatible Spanning Tree protocol

 Bridge Identifier has priority 32768, address 001e.4a6f.72c2

 Configured hello time 2, forward delay 15, max age 20, max hops 20

 Root bridge for: MST02

  • 各 MST インスタンスの情報と、インスタンスごとのブリッジ ID やルートブリッジの情報を確認できます。

3.2. 他のスパニングツリープロトコルとの相互運用

MST を使用する際、他の STP プロトコル(例: PVST+、RSTP)と相互運用する場合は、スイッチ間の設定が一致していることを確認してください。特に、MST リージョン内の設定(リージョン名、リビジョン番号、VLAN-to-Instance マッピング)が不一致の場合、正しく動作しないことがあります。

4. MST のメリットとデメリット

4.1. メリット

  • 効率的な負荷分散:

    • 複数の MST インスタンスを使用して、異なる経路を選択することで、トラフィックを効果的に分散できます。
  • スケーラビリティの向上:

    • 大規模な VLAN 管理やループ防止が可能で、ネットワークの規模が大きくなっても安定した動作を維持できます。
  • 高速な収束時間:

    • MST は RSTP ベースの収束アルゴリズムを使用しているため、ネットワークの障害時にも短時間で復旧が可能です。

4.2. デメリット

  • 設定の複雑さ:

    • MST の設定には、リージョン名、リビジョン番号、VLAN-to-Instance マッピングの統一が必要であり、設定ミスが発生すると MST が正しく動作しません。
  • 他の STP プロトコルとの相互運用性の問題:

    • PVST+(Per-VLAN Spanning Tree Plus)などの他の STP プロトコルと連携する場合、設定や動作が異なることがあるため、相互運用性に注意が必要です。

5. まとめ

  • MST(Multiple Spanning Tree) は、複数の VLAN を効率的に管理し、ネットワークの負荷分散を最適化するために設計されたスパニングツリープロトコルです。
  • MST は、STP や RSTP の制約を解決し、冗長リンクの活用、負荷分散、スケーラビリティの向上を実現します。
  • 正しい設定と管理を行うことで、大規模ネットワークの運用を安定化し、効率的なトラフィック管理が可能になります。

MST は、特に大規模ネットワークやデータセンター環境で有効なプロトコルですが、設定の複雑さから慎重な構成と検証が求められるため、導入前に十分なテストと確認を行うことが重要です。