三分咲き
丈の短い、祖母がくれたコートを着ていました。
裏地には虫食いの穴がぽつぽつ開いていたし
襟も袖口も擦れて薄くなっていたけれど
年季の入ったその冬服が好きでした。
春になっても、満開にはまだ少し早い頃
日が暮れると急に肌寒い気配が足元に漂いはじめます。
なんとなく、好きな人がいました。
三分咲きの並木道で立ちどまり
なんとなく寄り添って、なんとなく指をからめ
なんとなく抱きすくめられ、なんとなく口づけたのです。
けれども、それっきりになってしまったのは
全部なんとなくで、適当だったからなのでしょう。
コート越しに感じた煙の匂いとぬくもりは
あっという間に風がさらっていきました。
本気になる前の蕾は咲かぬまま
冬色の服と一緒に仕舞っておきました。