見えない壁 | 恋愛小説家

見えない壁

ショッピングモールのガラス張りのエントランスに

スズメが一羽入り込んでいました。

ガラス越しに見える空に向かって何度も何度も羽ばたいては

ごつんと鈍い音を立てて、見えない壁にぶつかり、ぽとりと落ちるのです。

見るからに力なく弱っているようで、小さなからだが震えていました。

ときどき人が通ると自動ドアは開くのですが、

すぐに閉まってしまうし、スズメにはそんなこと、分からないのでしょう。


なんとか外に出してあげようと思いました。

自動ドアの真ん中にカートを挟み、スズメに話しかけます。

「おーい、外はこっちだよ。」

チチチと、鳴きまねをしても反応せず(当たり前か。)

こちらは必死だというのに、まだ飛び出してはガラスにぶつかり

床に落ちてはもがきます。もうやめて、と思います。

自動ドア近くまで、ようやく追い込んだにもかかわらず、

今度は開閉に巻き込まれそうになり、ハラハラしました。


野生の生き物にはできるだけ触れないように・・・とも言ってられません。

角で丸まったスズメをつかみました。

観念したのか、あまり抵抗せずに手中におさまったスズメは

きっとまだ飛び方を覚えたばかり。羽の色も淡く、とても華奢でした。

軽くてほのかに骨ばり、やわらかであたたかい繊細な生き物を

外に放ってやりました。


ガラスの中から外の世界を見れば、そこに何の隔たりもないかのよう。

けれども確かに、すんなりと通り抜けられない、見えない壁がありました。

スズメにしてみれば、何故かわからないけれど思うように飛べず

何度も痛い目にあって、自由を奪われ、衰弱していくばかり。

気をつけないと、そういう世界は人の国にはたくさんあるみたい。

見えない壁が、見えない小鳥。

外に出られてよかった。