3両目の蜂 | 恋愛小説家

3両目の蜂

発車時刻になっても動かない地下鉄で、流れたアナウンス。

「当列車の3両目の2番目のドアの蛍光灯付近にスズメバチがおります。」

私は1両目に乗っていました。

3両目に乗っていた人を、2両目と4両目に避難させ、

珍客、スズメバチを一匹乗せて

一見空っぽの3両目と連結した地下鉄は発車しました。

道中すべての駅と、車内で繰り返し聞いたアナウンス。

あの後スズメバチはどうなったんだろう。

そもそも本当にスズメバチだったの?

 

喉がひりひり。痰からほのかに血の味がしました。

はちみつレモンのドロップを口に放り込んで、ごほん。

マスクのくすぐったさにも慣れました。

 

 

あるとき、自分について

身長体重、見た目も出来ることも

総じて平凡な気がしたのです。

それでも、そんな私でも

誰かにとって「特別」であるということがわかっただけで

スキップするほどうれしかった。

生きている、愛されている、愛している。

私の持っている、一番の財産は

見えないところにあるのだと思いました。