青い車 | 恋愛小説家

青い車

今年の秋は、免許の更新です。


その昔、実家では唯一の免許保持者だった父と

「仮免許練習中」という手書きの紙を張り付けて

ヤニの染みついた車で、近所の広い駐車場まで出かけました。

寒い2月の朝、たった一度の親子練習。
 

家族そろって車で遠出するといっても、年に数回あるかないか。

川崎から横浜まで、1時間ほどのドライブだったと思いますが、

子どもだった私にはやけに長く感じられたものです。

親孝行という訳ではなく、それがなんとなく私の「役」であるような気がして

免許を取ったら替わってあげられるだろうか?と思っていました。

 

高校時代のアルバイトは、免許を取るために貯金していました。

33万円一括払い、追試があっても追加徴収されないパックを選び

(今、ひったくりにあったら悲劇だわ・・・)と、ダークな想像をしながら

現金を入れた封筒を手に、自転車を立ちこぎして教習所へ向かいました。

進路が決まってからは高校よりも教習所!というぐらい通いつめ、

心配していた追試にも遭わず、おそらく最短で免許を手にしました。

18歳の春です。

 

駐車場が道幅の狭い私道に面していたということもあり

私が父の車に乗ることはほとんどありませんでした。

結局、ハンドルを握ることもないまま、

間もなく、念願の免許は単なる身分証明書として

財布の定位置をキープするようになり、自動的に金色になりました。

そして今年は何度目かの更新。

5年使うものですから「いい顔」をしなくちゃです。

 

今でこそ運転大好き、男前(?)に裏道も長距離も走る私ですが、

軌道に乗るまでは緊張しっぱなしで、身体が直角になっていたのも懐かしい。

初めてキーを回した感触、初めて近くのスーパーに行けたときの感動たるや。

たまに思い出し、自分の歩みに微笑みたいものです。

初めて自転車に乗れたとき、初めて水の中で目が開けたとき、

そういう小さい(小さすぎる)一歩を積み重ねてきたことを、ときどき。

 

そうです、初めてあなたに逢った日のことも。

 

 

スピッツ「青い車

 

最近、この曲を聴く機会があって、当時の記憶がフラッシュバックしました。

 

奇しくも、初めて乗ったのは青い車でした。

緊張しすぎて直角に曲がった身体で

せめて少しぐらいリラックスできるようにと、何度も聴き口ずさんだ曲。

知らない町で、学校に、買い物に、探検にも行けるようにしてくれた曲。

 

君の青い車で海へ行こう

おいてきた何かを見に行こう

もう何も恐れないよ

つまらない宝物を眺めよう

偽物のかけらにキスしよう

今変わっていくよ

 

同じ音楽に、同じひとりの人生に

新しい思い出や記憶が重なっていくから面白い。

そういえば私の手には、つまらない宝物だらけだし

本物でも偽物でも、有名でも無名でも、世間の評価も

そんなことは何の意味もないことで

人も物も、その人が大切だと思うならばそれでいいのだと思います。

 

平凡な私だとしても、

誰かにとっての「特別」になれることがあるように。