定点観測 | 恋愛小説家

定点観測

幸せそうなひと、悲しそうなひと、

口をへの字に曲げたひと、笑っているひと、

やたら急いでいるひと、のんびり抜かされていくひと。


信号で立ち止まったひとが

緑色の号令とともに散らばっていく。

誰にだって向かう方向と歩いてきた道があるし、

みんな今を生きてる。


彼女は公衆電話の横で、彼を待っていた。

「今の私は、前よりずっと幸せ」と確信しながら

見慣れた彼の姿が人混みをかき分けてくるのを

少し背伸びして、目を細めて。


だけど、彼女が身を焦がしていた、一つ前の恋も

「とてもいい恋愛」だったから

失ったときの痛みは小さい時限爆弾みたいになって残っている。

その爆弾は、ときどき彼女の胸をしくしくさせ、

ついでに「彼」の胸まで、うずかせている。


通り過ぎた恋愛なんて、あって然るべきで

目が眩むほど幸せな記憶、身を切るように辛い別れ

みんな、そういう要素を持っているのに

普段はあまり気づかず、気づいた途端

不安になったり切なくなったり悲しくなったりする。


もし胸が苦しくてしかたなく、ぽろぽろ涙がこぼれたとしても

それは一過性の、ちょっとした発作で

目の前にある幸せを、もっともっと、大切にするべきだってこと

教えてくれているんだと思う。

きっと、そうだよ。