春を迎えに | 恋愛小説家

春を迎えに

みんな人生を旅してる。

あなたも、アイツも、君も、私だってそう。

 

 
“完全に”恋に落ちる前の私は、

意識的に、マニッシュなものを身につけていました。

ごつごつした腕時計、メンズ物の鞄、角襟のシャツ。

女性らしい造作、かわいらしさを主張するものよりは

黒や茶色、緑や紺が落ち着く気がしたし、

仕事では、男女の区別をつけられたくないと

思っていたこともあります。

 

だから、あのマフラーは、私のお気に入りでした。

 

街の賑わいは、クリスマス前の盛り上がりだったり

ミシュランマンみたいなダウンジャケットだったり、

くっつき合うカップルだったり、

見るからに防寒仕様な無数の人々の熱気。

 

とても寒いと思っていたのに、

あの日、あなたは呆れるほど薄着でしたから

気づけば襟元からマフラーを外していました。

それを、肩をすくめるあなたに巻きつけたくて。

 

時が止まったような一瞬は、今も鮮明なまま。

肌を刺す冷たいビル風も思い出せます。

私のマフラーは、本来の居場所へ戻っていくかのように

あなたのものになったのです。

 

少し屈んでくれたあなたの仕草

ぽんぽんと、軽くはたいた大きな肩。

喧騒が、まるで耳に入らなかった。

 

いつしか手をつないでいました。

抗いがたく、心までも自然に

あなたのものになったのです。

 

私はいま

春を迎えに行ったあなたのことを考えています。

そろそろ明るい色を着たいから

満開の便りを届けに来てください。