春を迎えに
みんな人生を旅してる。
あなたも、アイツも、君も、私だってそう。
★
“完全に”恋に落ちる前の私は、
意識的に、マニッシュなものを身につけていました。
ごつごつした腕時計、メンズ物の鞄、角襟のシャツ。
女性らしい造作、かわいらしさを主張するものよりは
黒や茶色、緑や紺が落ち着く気がしたし、
仕事では、男女の区別をつけられたくないと
思っていたこともあります。
だから、あのマフラーは、私のお気に入りでした。
街の賑わいは、クリスマス前の盛り上がりだったり
ミシュランマンみたいなダウンジャケットだったり、
くっつき合うカップルだったり、
見るからに防寒仕様な無数の人々の熱気。
とても寒いと思っていたのに、
あの日、あなたは呆れるほど薄着でしたから
気づけば襟元からマフラーを外していました。
それを、肩をすくめるあなたに巻きつけたくて。
時が止まったような一瞬は、今も鮮明なまま。
肌を刺す冷たいビル風も思い出せます。
私のマフラーは、本来の居場所へ戻っていくかのように
あなたのものになったのです。
少し屈んでくれたあなたの仕草
ぽんぽんと、軽くはたいた大きな肩。
喧騒が、まるで耳に入らなかった。
いつしか手をつないでいました。
抗いがたく、心までも自然に
あなたのものになったのです。
私はいま
春を迎えに行ったあなたのことを考えています。
そろそろ明るい色を着たいから
満開の便りを届けに来てください。