耳を塞ぐ | 恋愛小説家

耳を塞ぐ

脱ぎ捨てられた服の山を洗濯機に放り込みながら、汚れた食器であふれた流しに立ちながら、母はよく音楽を聴いていました。

 

「今から耳するからね」という断りを入れてから、おもむろにヘッドフォンを装着するのが合図でした。それは、これから音楽を聴くから話しかけても返事できないわよ・・・という宣言だったように思います。

 

母の好きな音楽は、世代の違う私にはさっぱり分からないものが多く、子どもらしく文句を言うこともしょっちゅうでした。それでも彼女のカセットテープは擦り切れるまで回転していました。

 

母の青春時代を支えた大切な歌の数々であり、窮地を救って勇気づけるような、心地よい癒しだったのでしょう。ヘッドフォンの中で、大音量でかかる音の洪水に、ときに涙ぐんだり小躍りしたり。古い台所を行ったり来たりする床のきしみだけが不規則に聞えてくるのです。

 

切なさに胸がいっぱいになるような音楽を聴くために、

私も、今夜は耳を塞いでいます。

  
他には何もいらない

好きな音だけに耳を傾けよう

しがらみや愛しいものさえ封じ込めて

ひとりの世界にどっぷり浸かって

懐かしい旅に出る時間は

少し強い自分になるための妙薬

泣いてもいいし笑ってもいい