緑色の新幹線2
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彼が行ってしまってからというもの
身体が半分欠落したような寂しさは埋めようがなかった。
私には、いつも左側を歩くクセがあったから
妙に見通しの良くなった車道で、横風を受けると不安になった。
毎日一緒にいられるのが当たり前だったころは
大切なことに気づかないまま能天気に恋をしていたんだろう。
私は僅かな貯金をすべて旅費に変えるぐらいの覚悟で
ただその目的のためだけに、仕事に勤しんでいた。
頑張れば、彼に逢える!という目標さえあれば・・・
単純でささやかなことに感動できるし
何事も退屈だと感じなくなった。
彼も私も、「逢いたい」と簡単に口にしなかったから
次に顔を見られるのはいつになるのかも知れない。
言わなくたってひしひしと感じるから、それだけで十分だった。
逢えない分、愛情は凝縮されていく。
相手を思いやる気持ちは静かに育ち
お互いがとても優しく、遠くの相手を慕っていたと思う。
時代はポケベル全盛期。
それでも彼の暮らす寮には、ダイヤル式の赤電話しかなかった。
たった一台の電話に、怪しいのは覚悟の上で
週に2回、家族の振りをして電話する。
長距離電話は、手短に・・・そう思っても名残惜しく
受話器を置くタイミングを「いっせいのせ」と合わせてみる。
ところが必ずどちらかがズルをするから、一向に切れなかった。
思わず、苦笑いしてしまう瞬間
泣きそうになる。想いが溢れそうになる。
ある日のこと。
電話をようやく切った途端、いきなり彼に逢いたくなった。
そうするとどうにも眠れなくなって
薄暗い時間にむっくりと起き出し、駅に向かった。
始発電車を乗り継ぎ
とうとう私も、緑色の新幹線に乗り込んでいた。