志村けんさんが主演するはずだった「キネマの神様」。
朝ドラ「エール」での渋い芝居を観る度
あぁけんさんの映画を観てみたかったなぁと想いに耽るのですが……
それはもうどうしようもないこと。
コロナ憎しとしか言いようがないわけです。
そんな映画を監督されるのが、日本を代表する山田洋次監督です。
山田洋次監督は
小津安二郎「東京物語」を、2013年にリメイクしました。
それが、『東京家族』だったわけですが
「東京物語」の象徴でもあったセリフ
「墓に布団も着せられず」
このセリフが作中、一度しか出てこなかった時点で
「東京物語」の全てをリメイクしたわけではなく
ストーリーだけをリメイクしたのだなぁとわかるのです。
「東京物語」で
「墓に布団も着せられず」は
次男が二度、使います。
一度目と二度目では、同じセリフなのに
受け手に与える印象が全く違う
そこが「東京物語」の醍醐味でもありましたが
『東京家族』では割愛されています。
さて、映画のストーリーは
田舎から東京に遊びに出てきた父と母をおもてなしするのは
正直しんどいなぁという息子や娘たちの描写から始まります。
最初のお泊まりの晩の食事に、お肉とお魚両方出そうかどうしようか
という相談を息子たちがしますが
長男は「さしみはいらんやろ」と言います。
この一言が
「おもてなしするのは正直しんどい」という気持ちを表現するスタートなのですが
巧いのは
そのしばらくあとに、
父母を泊めるために部屋から放り出された孫の机が1カット映る。
この1カットが「正直しんどい」さしみのセリフを強調するものであり
たった1カットでこうもセリフを活かすことができるのか! と感動するところでもあります。
この一連の流れは
「東京物語」にも『東京家族』にもありますが
後者のほうは少しその前後に2人が歓迎されている感が強く出すぎていて
やはり前者の見せ方が巧いなぁと舌を巻いてしまうのです。
(紀子の登場を間に挟んでいる点も踏まえ)
小津安二郎はとにかく何も説明しない監督です。
演出家の意図であるカメラの動きが
ほとんどないというところがその証拠です。
だけど、山田洋次はそうではない。
クライマックスで、紀子が、田舎で父と2人きりになるシーンがあります。
帰り際ですね。
紀子はそこで、自分のことが卑怯だと告げます。
「東京物語」の紀子、原節子は
戦死した次男のことを忘れてしまいそうだと……
一方、『東京家族』の蒼井優は
ここに来るのが嫌だったんだと……
うーん
やはり比べるとスケールが全然違うなぁと唸ってしまいますね。
そしてこともあろうに蒼井優は
帰りのフェリーの上で、その際に自分が思わず泣いてしまった理由を
「説明」してしまっているのです。
というわけで
『東京家族』は「東京物語」ではない。ということがわかるかと思います。
ただ、それはあまりにも「東京物語」が名作すぎるのであって
『東京家族』が駄作というわけではないです。
わたしは山田洋次が嫌いじゃないし、「学校Ⅱ」は泣けたし
「キネマの神様」も観たいと思う。
ただ、ひとつだけ言うならば
英語の先生がチャリでコケるというような「山田洋次感」を出すのは
この映画では避けて欲しかったなぁと思うのです。
