朝、泣きつかれて寝落ちしていた。



ふと起きると、わたしたちに布団がかかっていた。


かけた覚えはなかった。


もしかしたら…




支度をして、葬儀に


粛々と進む



焼香の時間



長男を抱えて、長女と立ち上がる。

長女と一緒におじぎをして焼香をする。

上手にできていた。


席に戻って、長女を褒めた。



葬儀が終わり、花を飾る。


思いつきで、長女と長男と私の髪を添える。


妻は、子どもたちの頭をなでるのが好きだったから。


あと、妻の愛用のハンドクリームも添えた。

天国でも使えるように



フタをしめて、車に乗せてあげる。

私と妻は、一緒の車

他の人は別の車で出発する。



運転手さんにお願いして、いくつか経由して焼き場へ向かう。



久しぶりに、妻と出歩く


愛ちゃん

天気がいいね。

君は晴れ女だからね



最初は、結婚式場


病院から、ずっと眺めていたから


その後は保育園


妻は、子どもの送り迎えをやりたいとずっと言っていた。

妻が選んだお気に入りの保育園



これからは、俺がちゃんと子どもたちを育てるからね



そう誓って、そのままいつもの帰り道を通って家に




ずっと帰りたがっていた。


でも、在宅看護は寿命を縮める行為だった。

毎日毎日、先生と私と妻は体調を相談して、細かく薬の内容を変えていた。


どうしても生きたかった。 


だけど、もういい。



愛ちゃん、うちだよ。

やっと帰ってきたね。

これからは、ずっと一緒だからね。




焼き場に向かう。


途中で、桜並木があった。


半分散っていたが、それでも桜の花が見えた。


愛ちゃん

綺麗だね。




焼き場に到着


最期に顔を見て、私が蓋を締めて、窯に入れる。



窯に入れる時、長女が



愛ちゃん

愛ちゃん



と泣き始めた。



愛ちゃん

愛ちゃん



ポロポロと泣く。


泣く長女と遺影と位牌を持って、ロビーに



愛ちゃん

愛ちゃん

寂しいよ


愛ちゃん

愛ちゃん



長女を抱きしめて、一緒に泣く。



離れたところで、長女より大きな子どもたちが遊んでいる。


なんで、唯ちゃんは泣いているんだろう。



スマホを取り出す。


愛ちゃんからの唯ちゃんへのビデオメッセージを見せる。



妻の、優しい声が長女の涙を止めてくれた。


たくさんの愛情溢れる言葉が、暖かくて、心地よかった。



泣き止んだ長女を連れて、控室へ


長女を預けて、私は窯へ


窯の中からゴーっていう音がする。


妻が焼かれている。


ドアに手を当てる


石のような素材で、熱は伝わらない。



熱いかい?

ごめんね。

でも、もうすぐ終わるから

また来るよ



なんて声をかけて、控室へ


控室で、妻の祖母から最期の状況を聞かれた。


傷つけないように、話せることだけ話した。



その間に、焼き終わる


遺骨を見る。


何故か、これは愛ちゃんだって、よく分かる。


どんどん骨壺へ


入れ終わって、終了



バスに乗って、葬儀場に戻る。



バスに揺られながら、


終わったね。


と妻に声を掛ける。



疲れが出る。


今日もなにも食べてない。


気持ち悪い。頭が痛い。

身体が重たい。


何故か、妻がひざの上に座っている気がした。


身体が重たい。



葬儀場に戻ったあとも、ずっと座っていた。

親族の皆さんが着替えて、挨拶して帰っていった。


私は、妻の骨壺を助手席に置いて帰った。



家に入る。


机のうえに、骨壺を置く。



なでる。

涙がこぼれる。


骨壺を抱きしめる。

泣く

泣く


骨壺は、ほんのり暖かかった。



おかえり

おかえり



そのまましばらく動けなかった。




夕方、葬儀屋さんが来て、祭壇を作ってくれた。

立派な祭壇だった。



その後は、ぼんやりとしていた。


妻が死んだことに現実味がない。


ぼんやりして、おにぎりを食べて


でも吐き戻して


眠たくもなくて




結局、部屋を片付け始めた。


病気の間使っていた妻の遺品をまとめた。

祭壇に飾りたいものを並べた。

冷蔵庫の中はほとんど賞味期限が切れていたので、捨てていった。



そうして、夜中まで作業を続けた。


飽きたら、妻の前に座って、アイノカタチを聞いた。


まるで葬儀場にいる気分になった。



その度にポロポロ泣く



そして落ち着くと、また片付けを始めた。


何回か繰り返して


最後は妻の祭壇の前で寝ていた。