夕方病院に行く。


昼間に買っておいた冷製スープがお気に入りのようで、よく飲んでくれた。



食事の後、今まで貯めていた妻と私のスマホ写真をパソコンで見ていた。


若い頃の私達が写っていた。



大学生の頃の写真

デートの写真

ディズニーの写真

美味しいご飯を食べた時の写真

新婚旅行の写真



どの写真を見ても、自分の妻の可愛さに驚いていた。


見れば見るほど、楽しい思い出が蘇る。

この写真に写っている私は、世界一幸せだったと本気で思える。


そんな写真ばかりだった。



妻のスマホには、私の写真がたくさんあった。

気づかないうちに撮られたものもたくさんあった。


妻は、本当に私のことを好きでいてくれたと実感できた。



妻は、きっと途中で寝ると思ったが、見たいと言って、ずっと一緒に見ていた。



結婚式の写真

子どもが生まれるからとカメラを買って撮った写真

妊婦さんになった妻


生まれたばかりの長女

子どもの抱き方がぎこちない妻




どの写真も、幸せが溢れていた。




妻は、じっと食い入るように見ていた。


私は、底抜けに明るい、 妻の笑顔が嬉しくて、悲しくて、何度も声を出して泣いた。


失いたくなくて、何度も泣いた。



1時間くらいして、妻は、疲れたと言うので横になった。



すると、また苦しみがやってきた。


死にたいの



妻は、ポツリとつぶやいた。



ただ、なだめた。

死ねない理由なんて、わからない。


こんなに死にそうで、こんなに死にたいって言っているのに

妻は、まだ死なない。



何か大きなものが導いてくれているのか

妻のこれまでの行いか

私たちの愛か

医療か



でも、まだ死なない。


それなら、最期まで生きるしかない



そんな話をした。



わかった。



そう返事をして、妻はその後死にたいと言わなかった。



寝て、起きて、スープやアイス、飲み物、ウィダー等をこまめに食べていた。


美味しいと、いつも言っていた。

それが救いだった。




夜が明けて、お姫様抱っこをして、外を眺めた。


天気が良かった。


妻が、立ちたいと言った。



支えながら、地面に足をおろして、立たせた。


少しの間、足に力が入って、妻は立った。



立てたね。


うん。嬉しい。  



そう言って、笑っていた。




この先は、まだまだ、わからない。


そう信じたかった。