夜7時ころ


妻からの電話


何も、わからない。

覚えてない。

りょうくん、助けて。


慌てて車に乗り、病院に行く。


電話はつなげたまま

スピーカーから看護師やお父さんが妻の近くに集まっているのがわかった。


妻は、パニックになっていた。



病室につく。


妻はベッドに座って泣いていた。

看護師は、少し一人でいたら寂しくなったようだと言った。

お父さんが夕食を食べに離れていたらしい。


妻の手を取って話しかける。


私は、なんで生まれたの

どこで生まれたの

なんでここにいるの

なんでご飯食べれないの

なにもわからない


妻を落ち着かせながら、いろいろな質問をする。


妻の名前、子どもの名前、兄弟の名前

飼っていた犬の名前、私の電話番号


そのどれもをきちんと答えた。



記憶がごちゃごちゃしている?

よくわからない。


妻に何が起きたのか尋ねた。


お父さんにお願いして、アイスを持ってきてもらって食べた。

味噌汁もお願いした。

味噌汁を食べている間、お父さんが買い物に行った。

一人で味噌汁を食べていたら、段々色んなことがわからなくなった。

それでりょうくんに電話した。


そう答えた。



落ち着かせる。

妻が言う。


私は、なんで生きなきゃいけないの?

死んじゃだめなの?

生きる理由はなに?

ママだから?


話しているうちに、点滴が効いてきて眠くなり始めた。


妻を、少し起こす。

危篤になった時みたいに、起きないような気がして


妻は、パチリと目を開けてくれた。

問いかけに頷く。

とりあえず眠たいので寝ると言う。


付き添おうか尋ねたが、お父さんがいるから大丈夫と言う。


わかったと答えて、妻を寝かしつけて一旦帰宅


夕食を食べて、お父さんに連絡

何かあったらすぐ電話ください。





夜12時


お父さんからの電話


胸が苦しくて起きた。

今薬を追加してもらって寝たが、来て欲しい。


車で病院へ



病室のベッドで寝ている妻

声を掛けると頷いて、簡単に受け答えしてくれた。


お父さんは疲れていたので交代

明日の朝来てもらう。



今の妻は、よく寝ている。

呼吸も脈も普通

きっと明日も、いつものように起きてくれる。


そう信じて、そばにいる。