朝、おばさんと二人で病院に行った。



妻は、病室のベッドで寝ていた。

目を開けているが、声をかけても反応は薄かった。



おばさんは、痩せた妻を見て、たくさん泣いていた。

会う前は泣いたら愛姫がかわいそうなんて言ってたが、止められるわけがなかった。



徐々に、妻の正気が戻ってきて、おばさんと話す。


おばさんは、妻を優しく抱きしめた。


たくさん、抱きしめた。


互いが互いの背中をさする。

優しく。愛おしく。



おばさんは、


私は娘のように思っているよ


と優しく伝えた。

そして、


愛している


と伝えた。

何度も。



妻も応えた。


ありがとう。愛している。


泣いても泣いても、涙がとまらなかった。





ひとしきり泣いた後、妻はおばさんに置鍼をしてもらった。


妻が元気になるように、たくさんの気持ちを込めていた。



時間になり、おばさんは妻に、愛姫また来るよと伝えた。


妻は、ありがとうと応えた。



おばさんを送った後、私と妻は先生と面談した。


内容は、今後の方針についでだった。


この時、先生から妻の今の現状について聞いた。



妻は、ガンの痛みで強い痛み止めを使っている。

この痛み止めは、眠気と吐き気が強く出るもので、今は、そのせいで食事がとれない。

そのため、更に薬の量や種類を調整する必要がある。


とのことだった。



色々話した結果、妻の帰宅したいという気持ちを優先して、帰るための訪問診療をする医師探しと子どもたちと面会できる緩和ケア病棟への移動を並行して行うことになった。


先生の話が終わった後、妻に、今後どうしたいのか尋ねた。

すると、妻は、少し目線をそらして諦めないと応えた。


妻に、本当の気持ちを聞いた。

嘘だと思ったから。

すると、


本当は、諦めたい。

もう、身体が悲鳴をあげていて、苦しい。


と言った。


妻に、今まで諦めないと言っていたのは、俺や子どもたちの為かと聞いた。


妻は、ゆっくり頷いた。



妻に、わかったよ。と優しく応えた。


妻の本心が知りたかった。

だから良かった。


でも、希望が崩れる気持ちになった。


生きる気力がなければ、生きられない。


これが、大原則だから。





妻と話していると、私の母が手伝いに来たので、妻と面会した。



よく泣く母だが、今日は泣かなかった。


あっさり面会して、私は母と一旦帰宅して昼食にした。



母に今の状況を伝えた。


突然ポロポロ泣き出す母


私は、冷静でいないとって思ってて。

本当は仕事辞めて、ずっこっちにいたいけど。

ただ、愛ちゃんがかわいそうで。



さっきは、妻に気を使って、泣かなかったと知った。


泣いてくれて、嬉しかった。




昼食を取ったあとは、私だけ病室に戻る。


妻は死を受け入れている。

余命を受け入れている。


そう考えると、とてもつらくなっていった。



妻とは、他愛ない話ばかりをした。


痛み止めでぼんやりしている妻に、私が一方的に話しかけていた。



大学の時のこと

妻といったデートのこと

子どもたちのこと



話を聞いてくれるのが嬉しかった。


最近は一緒に話しかけていたいる時間が制限されていたから、他愛ない話ができなかった。


ここなら、たくさん話せる。


そのうち、余命を受け入れる話になった。


お葬式について

今後の生き方について


そして、子どもたちに伝えたいことについて


妻は、


愛している


と伝えてほしいと言った。



そしたら、何故か涙が出てきた。 


子どもたちのことを考えていたら、泣けてきた。


子どもたちは、ほんとうによく頑張っていた。

長女は4歳、長男は1歳


妻が病気になってから、私がずっと育ててきた。


少しずつ、できることが増える二人

その全てが愛おしい。


育児というのはすごい。


私の中が、こんなに、こんなに子どもたちへの愛で溢れている。


長女長男の成長が、心から嬉しかった。


人から子どもを褒められると、ほんとうに幸せだった。



私は妻に、諦められるの?と尋ねた。


子どもたちの成長を見ないでいいの?

長女はママの代わりに長男をあやすようになって、長男は何かできると、ニコニコして、褒めてーって抱きしめてくれるんだよ。

本当に可愛いんだよ。

2人とも俺がどんなに遅くなっても、迎えに行ったらニコニコして来てくれるんだよ。

ママは?っていつも聞くんだよ。

寝る時も、ママの布団を敷くっていうんだよ。

何を子ども園で工作しても、全部、ママのために作ったって言ってるんだよ。

こんなに可愛い子たちのそばにいないでいいの?

本当に愛してくれているのは、子どもたちなんだよ。


泣きながら、妻に話した。


妻も、泣いていた。


そのまま2人で泣き続けた。




泣いて泣いて、鼻水が2人ともすごくて、鼻をかんで


なんてしていたら、ティッシュがなくなったので、売店に行き、ティッシュとお菓子を買った。


部屋に戻り、お菓子を食べた。


妻が、


一口ちょうだい


と言った。

お菓子をあげた。


妻は、少しずつ食べた。



私は、子どもたちの迎えのために一旦病院を離れた。