朝から隣町に行く。

2年前まで住んでいた町。


妻のママ友のかいちゃんママが妻のためにお守りを買ってくれたので、それを受け取りに行く。

妻には内緒だった。

驚かせたかった。


道に迷いながらかいちゃんの家に着くと、かいちゃんママとお父さん、子ども3人が出迎えてくれた。


お姉ちゃんとかいちゃんと生まれたばかりの赤ちゃん


みんな可愛かった。

長女は一度遊びに来たことがあり、玄関を開けると子どもたちに連れられて中に入っていく。


少し立ち寄るだけの予定だったので戸惑う。


すると、戸惑っている私にかいちゃんママは、袋いっぱいの差入を二つ私に差し出した。


1つめはお菓子

2つめはお守りと私や妻のための癒しグッズ、子どもたちのための絵本やおもちゃ

だった。


かいちゃんママが


ほんの気持ちです。

愛ちゃんには、元気になってほしいから。


そう言って、大粒の涙をポロポロこぼす。 


私は、一緒に泣いてしまった。

涙が止まらなかった。

嬉しかった。

ただただその優しさが嬉しかった。


ありがとうございます。


そう言うのが精一杯だった。

かいちゃんママとパパに強く勧められて、少しだけお邪魔することにした。

家は、新築で、2階に子ども部屋があり、そこにはたくさんのおもちゃがあった。 

長女と長男は、色んなおもちゃを手に取り、遊ばせてもらった。

かいちゃんやかいちゃんのお姉ちゃんも一緒に遊んでくれた。

かいちゃんパパも嫌な顔一つせず、迎え入れてくれた。

かいちゃんファミリーは本当に温かかった。


時計を見ると、ちょうど妻と電話できる時間だった。 


妻に子どもたちが遊んでいる様子を撮って、妻に送る。


私 どこでしょう?

妻 かいちゃんち!


返事がきたので、電話をする。


すぐにかいちゃんママに代わる。

かいちゃんママは、声が聞けて良かったと言いながら、いっぱい泣いていた。

妻も、電話の向こうでたくさん泣いていたようだった。


かいちゃんママにたくさん応援してもらった後、テレビ電話にして、子どもたちの様子を送る。

妻は泣きながら、その様子を見ていた。

子どもたちが手を振る

妻はありがとーと言いながら泣き続けた。



かいちゃんファミリーに見送られて、今度は近くにある公園に行く。

住んでいた頃によく来ていた公園だった。

長女が生まれたばかりの頃、妻はよくこの公園に来て、長女の写真を撮っていた。

思い出の場所だった。


子どもたちは、広い公園を散策する。

長男が以前来た時は、まだほとんど抱っこだったのに、今は自分で一生懸命歩いていた。

その成長が嬉しかった。


子どもたちををたくさん撮った。

すこしでも成長の喜びを妻に伝えたかった。


その後、妻の両親と合流して昼食を食べ、子どもたちを預けて妻の面会に行く。



病院には、かいちゃんママにもらったたくさんの差入をすべて持っていった。

妻に、かいちゃんママからもらった全てを見せたかった。


ナースステーションに行くと誰もおらず、呼び鈴を鳴らしても人は来なかった。


遠くを見ると、もも上げをする人影が見えた。

こっちにむかって歩いてくる。


妻だった。

妻の歩きは以前よりキビキビしていて、明らかに元気だった。


食事は現在コーンスープや具なし味噌汁、卵豆腐ばかりだが、全て完食していた。

痛みは少しあるが、すぐ過ぎ去っていくそうで、痛み止めを使う程でもないらしい。

抗がん剤もきちんと飲んでいて、たまに吐き気が来るものの、そこまで負担はないらしい。


私は、近くにいた看護師さんに許可をもらって、妻と移動し、面会をした。


妻にかいちゃんママからの差入を見せる。


妻は、


こんなにどーしよー。嬉しいよー。


と言って泣く。

私も泣く。


どの差入にも丁寧な手紙が付いていた。

愛に溢れていた。


妻は、かいちゃんママのことを


優しくて、元気で、本当に素敵なママなんだよ。


と言っていた。


中に入っていたお守りやレッグウォーマーはすぐに妻が身につけていた。

また、中に入っていたおもちゃを見て、子どもたちとたくさん遊ぼうと話した。

また妻は、本当に優しい方だから、仲良くしてほしいと言った。

私がいなくても、という単語が隠れている気がして、一緒にお礼をしに行こうねと返した。


公園で撮った写真も妻に見せた。

子どもたちが歩く姿やお菓子をシェアする姿が映っていた。

天気が良かったので、写真は綺麗に撮れていた。

また、子どもたちの成長を感じられた。

妻は、とても喜んでくれた。

また必ず行こうねと話した。


面会後、帰宅して妻の両親と合流する。

妻の両親は今日でお別れだった。

子どもたちとありがとうと挨拶する。

なんだかんだあったが、楽しかったし助かった。

でも言うことは聞いて下さい。



妻の両親とともに家を出て、私達は私の実家にむかった。

父の見舞いで実家に一泊することにしていた。


実家には私の父がいた。

交通事故にあい、怪我をしていたが元気そうだった。

そのうち母も帰ってきて、風呂に入り、夕食をとる。

母は2月4日から一週間手伝いに来てくれるので、その際のことを相談した。

その後子どもたちを遊ばせて就寝した。



正月ぶりだったが、やはり実家は居心地が悪かった。

親父が怪我をしているので、手伝うと言えば、全て拒否され、終いには、

お前に干渉しないからお前も干渉するな

と言われた。

もうこの時点でお見舞いは終わりだった。


また、親父からは、お前の負担を下げるために帰ってこいという圧がすごかった。

愚痴一つこぼせば、


お前はパンク寸前だ。


と返され、暗に帰ってこいと圧力をかけてくる

ただ愚痴を聞いてくれるだけでいいのに。


面倒になって空返事をすれば、


全てお前たちの為にやっているのに


という言葉が親父から滲み出た。



妻の病状を話していると、愛ちゃんが食べたいものを食べさせればいいと言い始める。

食べられないと言ったばかりなのに。



面倒くさい。心が休まらない。

あー帰るんじゃなかったと後悔する。


…今思えば、妻に嫌な思いをさせた私もこんな感じだったのだろう。

妻の気持ちがわかった気がする。

申し訳ない。愛ちゃん。

もうしません。



来週も来い。ゆっくりしていけ。


と言われたが、もう来たくない。

行かない。と返したら、

なんでだ

と言われた。



居心地悪いんです。

とは言えず、濁して終わる。


スマホを見ると、妻とかいちゃんママからメッセージが来ていた。


妻からは、

痛みがなくて、元気になってきた。抗がん剤の負担もひどくない。

冷凍のペペロンチーノが食べたい。

キムチ鍋の雑炊が食べたい。

等と書かれていた。


かいちゃんママからは、たくさんの応援だった。

愛ちゃんと話せて良かった。

これからも応援する。

なにか困ったことがあれば言って欲しい。

パパさんもご自愛ください。

等と書かれていた。


1日の最後に、ものすごく救われた。

いや、助かった。

最後に愛情と希望を感じられた。

これでよく眠れる。






…深夜になって、長男が夜泣きをする。

全然眠らない。

私も眠れない。

やっと寝かしつけたら午前三時だった。


…早く帰りたい(T_T)