入院2日目


妻は、いよいよ抗がん剤治療に入った。


前回とてもキツかったそうなので、わたしも妻も緊張した。


私は、妻のことを心配しながら、給与明細を確認する。

今後、私は育児をしながら働かなければいけない。

パートをしていた妻の収入はゼロだ。

当然収入は著しく下がる。

妻の治療費、家賃、子どもたちの保育費等等


妻は、保険は殆ど入っていなかった。

当然がん保険なんてなかった。

だから治療費の補填は、あまり期待できなかった。

入っていた保険も、入院費を多少出してくれるものだった。


そこで先日、様々な積立制度の積立額をドンドン下げた。

月々の手取りは増えるが、将来に不安を残してしまう。

子どもたちの教育資金はキチンと取ってあるが、それ以外の貯金は出来ない。

でもこうしなければ、今の生活プラス妻の治療費は難しかった。


以前から抱えていた、つらい悩みだった。


働いて稼ぎたい。

でも、妻や子どもたちが可哀想で。

色々なことを考えて、苦しんでいた。


妻には、大丈夫だから。

としか言っていない。


でも、本当はなんとかしたくて。


最近は身体障害者の認定がとれないかとか、障害年金がもらえないか等を調べていた。

でも、どれも今の妻には難しいものだった。


グッと歯を噛みしめる。

深呼吸して、仕事に没頭する。


まずは、自分の仕事をやろう。

給料分の働きをしよう。



昼になって、妻から治療が始まったとメッセージが届く。


今回は、痛み止めがよく効いて、吐き気などはなかったそうだ。



終わった頃、妻から、明後日腹水を抜くから帰るのが明後日になると連絡が入る。


入院が1日延びる。

昨日泣いていた、長女の顔が浮かぶ。


妻に、何で突然腹水を抜くことになったのか。

それはどんな処置なのか。

いつ帰れるのか。

尋ねる。


妻は、わからないと言った。


最近、いつも妻は、わからないという。


昨日の静脈栄養法の手術も、どのような手術か、入院するのか、どのくらいの入院か、その後の生活はどうなるのか、何を注意すればいいのか、全く聞かなかった。

その手術の後、いつから抗がん剤治療をするのか先生に聞かなかった。

今日も、先生が腹水を抜くというから入院を延長する、程度のことしかわからなかった。


何も、疑問に思わないのだろうか。

何故、そんなにのんびりしているのだろうか。

その治療の意味を、キチンと聞くべきではないのか。


ほんのりと、職場のデスクでイライラする。

我慢して、明日でいいから先生に聞こうね。と伝える。

すると妻から、


電話で直接先生に聞いてください


と返事がくる。


さらにイライラする。

そんな気持ちで、治るんですか。

私や子どもたちと一緒にいたいんじゃないんですか。


深呼吸する。

パソコンに、我慢と十回打ち込む。


先生に電話をしたら、たくさん質問しちゃうから、明日聞いてください🙇‍♀


…なんとか乗り切った。




妻は午後から心電図などがあり、見舞いは不要とのことだったので、お母さんに迎えに来てもらい、帰宅する。


妻のお母さんは、子守が本当に上手だ。

凄く助かる。

が、料理と家事が苦手らしい。

昨日から、色々やってくれたが、中々難しい。



得手不得手はあるものだ。

子どもたちを見てくれるだけありがたい。


そう思って、子どもたちの面倒をお願いして、明日の朝食、夕食を作り、食器を洗い、子どもたちの明日の保育園の支度をして、洗濯をして、掃除をした。



アレコレやっていると、妻からメッセージが届く。


腹水を抜くのは1日かかるから、さらに1日延泊するとのことだった。



この時、私はカチンと来てしまった。

何故か私や子どもたちを蔑ろにされた気がした。

今までも、ずっと、妻は自分の治療について、ちゃんと聞いていなかった。

まるで、もう諦めているように。

それが、急に許せなくなった。


私は、


自分のことなんだから、ちゃんと大事なことを聞いて。ちゃんと考えて。

ツライ想いをしないためには、ちゃんと聞いて、考えて、対処しないとダメなんだよ。

治すのはアイちゃんなんだよ。


と、妻に文句のメッセージを送った。


妻は、謝っていた。


また、

最近まともに考えるのが難しい。

病気でつらくて、ぼんやりしている。

カウンセリングを受けたい。

あなたも受けないか。


等と書いてあった。


私は、ただ謝った。

妻を傷つけたから。


もう、色々なことが嫌になる。




午後8時半

子どもたちと就寝する時間に、家事が全て終わる。

眠たくてグズる長男と長女の歯を磨き、寝室に入る。

長男はこういう日に限って、寝ないで泣き叫ぶ。

眠れない。



…疲れた。