昼前に父が来た。


妻のガンが発覚して、初めて顔を合わせた。

父は食べられるものをたくさん持って来た。


妻の体調も良かった。

消化の良いものを食べていたが、吐き気などはなく、痛みもあまりなかったそうだ。


父からは、実家へ帰らないかと言われた。


家族皆で帰ってこい。

空いている部屋を私達のリビングにしていい。


ありがたい申し出だった。

とりあえず年末にお試しで暮らしてみることになった。


妻は、まだ父の家に帰らず、今の生活を続けたいと言う。

父は、私や妻がパンクしてしまうと心配した。


どちらの話も、正しいと思った。

ただ、私と妻は、まだ、妻のガンを知って一週間も経っていなくて、いろんなことを決めることができなかった。


明後日から始まる抗がん剤治療のこともあって、父からの申し出をすぐ受けることはできなかった。


父は理解してくれた。

焦らずちょっとずつ、最善を選ぼうと思う。


父は、子どもたちの面倒を見てくれた。

私と妻は、ゆっくり休むことができた。

父は明日も来るらしい。

ケーキを買ってくるとのことだった。


明日がクリスマスであることさえ、忘れていた。

クリスマスツリーは飾っていた。

12月に入って、長女と飾り付けた。

去年から、少しずつクリスマスグッズを増やしていて、それが楽しみだった。

去年長女が作った手作りサンタも飾られていた。


でも、クリスマスをする気持ちは絶えていた。


妻のガンが発覚して一週間

どんなイベントだって、楽しめるわけがない。


父は、こういうときこそ楽しもうと言った。

子供たちが可哀相だとも言った。

確かに、子どもからクリスマスを取り上げるのは、酷だと思った。


まだ、長女と長男には熱がある。

明日元気かはわからないが、クリスマスをしようと思った。


長女にはポケピースハウスを用意した。

長男には、妻がサッカーボールを買ってあげたいと言っていたが、妻の病気で、買いに行けなかった。

明日の朝、とりあえず長女の枕元にプレゼントを置こう。

喜んでくれるかな。



毎日一喜一憂している。

朝は沈んでいる。

起きるたびに、現実に返される感じがして、苦しくて、動けなくなる。

1日を過ごす中で、少しずつ、色んな人に助けられて、頑張ろうと思う。

でも、やっぱり苦しい。

何でこんな目に

死んでほしくない。妻と離れたくない。


妻や子供たちが寝ているとき、父に正直な気持ちを話した。


改めて口にしてわかった。


私は、妻と死んでほしくない。

妻に、一緒に生きてほしい。

家族4人で、平穏に過ごしたい。


今の私が欲しいもの

それがあれば、後は何もいらない。

それがなければ、私は、ずっと苦しむのだろうか。


神様。サンタさん。

本当に、これ以上は望まないから。

だから、お願い。



夕方、父が帰る。

妻が父にハグを求める。


父ちゃん。

来てくれてありがとう。

応援してね。


父は照れくさそうに妻の背中を叩く。

妻の背丈に合わせて、腰を屈めたまま、妻に応える。


なんて、親孝行な妻だろう。


明日は、クリスマス

世界中に幸せがあふれる日

私の家族にも幸せが来るのかな。


明日の朝、クリスマスツリーの下に、妻の病気を治す薬が置いていないかな。