朝起きると、長女と長男に熱があった。


妻も痛みを訴えて動けない。


かかりつけ医に電話をするが、発熱外来は満杯だった。

何件か掛けるも満杯だった。

諦めて、家で休ませながら、職場に連絡する。

妻の保険の関係を確認してもらっていたからだ。

結局入院や手術にいくらが出るが、抗がん剤治療には出ないらしい。

ただ、病院のサポートセンターに電話をすると、高額医療制度が使えるとのことだった。

最近の給与明細を見て色々計算すると、普通に暮らせば、ボーナス込で少しマイナスで済むとわかった。

貯金は新居用の金があるが、限りがある。

長丁場になれば、障害年金の申請などもあるので、制度をよく確認することにした。

使えるものを使わなければ。


午前中に子どもたちを医者に連れて行く。

外は大雪

たどり着けるか不安になるほどだった。


病院に行くと、2人分の診察書類を出す。

マサシはぐずるから、ずっと抱っこ


インフルコロナは陰性で、解熱剤をもらった。

どのタイミングで使えばいいか医者に尋ねると、


いつもはいつ使うんですか?


と聞かれた。

妻がいつも見ているので、すみません、わかりません。

と伝える。


ため息一つ吐き、辛そうだったら使ってください。と言う。


帰りに長女が食べたいというアイスを買う。

チョコのアイス


食べながら妻に電話をすると、元気になっているようだった。


保育園へのお使いを済ませて、帰宅する。

妻は痛みが引いたといい、私の作ったうどんを食べる。


食べている妻を見て、少し弱気になり、泣く。


正直、妻と子どもたちが体調を崩すと、一人では手に負えなかった。

さらに大雪、治療費の心配

追い打ちで冷たい医者の態度


日頃の疲れもあり、泣くと涙が止まらない。


私は、妻に使ってもらう電気毛布を買いに出る。

2店舗まわり、ヤマダ電気で見つける。

説明書きが曖昧だったので、店員に尋ねたが、こっちの方が電熱線多そうですよと言って、高い方を進める。

進められたものを買って帰宅


妻と長女と長男は、布団で寝ていた。

買ってきた電気毛布は存外暖かく、悪くなかった。

ぐずる長男と一緒に昼寝をする。


その後、部屋を片付け、夕食の支度や家事をこなす。

妻は、寝室に移ってもらい、休ませたが、吐き気と痛みが酷く、食事が取れなかった。


子どもたちにテレビを見せながらご飯を食べさせる。

熱は二人とも高く、普段なら少し食べて寝てなさいと言う。

でも、この日の私は、少し違った。


テレビでは、クリスマスと正月の話題ばかりだった。

どれも幸せそうな映像ばかり。

チャンネルを変えたら長寿とか、健康とか、人体の不思議とかの番組が映る。

チャンネルを変える。

がん保険のCM

チャンネルを変える。


結局いつも子どもたちが見ているパウ・パトロールにして、食事をした。

その間も、私は、先程映ったテレビを思い出していた。



なぜ、こんな目にあっているのだろう。


つい1ヶ月前まで、私達は幸せだった。

憧れのマイホームを買うため、妻と毎日相談した。

子どもたちは日毎に大きくなり、それが嬉しくて、怒ることはせず、のびのびと育てた。

私は、酒を飲まず、タバコを吸わず、誘われても風俗に行かず、趣味といえば金をかけずに体を鍛えることくらい。

月のお小遣いは二万円で、それを一万円以上余らせる。

マイホームのために弁当を毎日作り、水筒を持った。

仕事は真面目にこなした。

昇給しないのに、仕事で使うコンピュータの勉強をして、資格試験に取り組んだ。


妻は、誰にでも優しく、誰からも慕われる人だ。

小柄で、可愛い声をしている妻は、みんなに子どものように扱われる。

愛嬌があり、母としての器量も抜群だった。

貯金をしっかりと行い、マイホームの頭金を作った。

料理が得意で、何を作らせても美味い。


それが、今、私達は何をしているのだろう。


末期がんを宣告され、痛みに耐える妻と、それに絶望しながら支える私、そしてこれらの絶望さえ知らない小さく可哀相な子どもたち


正直に言えば、朝の妻と子どもたちを見て、いっそみんなで世界から消えてしまおうかと考えてしまった。


そのくらい追い込まれていた。



なぜ、そんな想いをしているのだろう。



長女が泣く。

これ以上食べたくない。

作ったおかゆはフタクチしか減っていない。


ちゃんと食え

力強く言う。

いいか、病気とか風邪に負けるな。

ちゃんと食って、しっかり病気を退治しなさい。

食べろ。


長女は泣くが、大きく一口食べてと激を飛ばし、食べさせる。


長男の口にも食事をいれる。



食事を終えると妻の様子を見る。

バケツに吐く妻

黙って見守り、終わった頃合いで片付ける。


落ち着くと妻の手を取り、

負けるな。

と激を飛ばす。



私は、とにかく悔しかった。

何も、悪いことはしなかった。

もうすぐクリスマスなのに、正月なのに

私達にそれを楽しむ余裕は、一切なかった。


悔しい。

だから、何が何でも負けたくなかった。

勝ちたかった。


完治まで求めない。

でも失われた幸せは全て取り返す。


寝る前、妻にこの気持ちを伝える。


あり得ないくらいの確率でこんな不幸に襲われた

だから、これを乗り越える奇跡だってかならずある。

それを成し遂げよう。


妻は拳を作る。

絶対に勝つよ。

力強くそういう。


メソメソしてた私と妻が、一転して闘争心をむき出しにする。


戦うぞ。