転生したのでしょうがなく 080 侍女再び | aitocolab ブログ 

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只の妄想を
アウトプット出来る時代に
感謝

リリア母様とエレナに再会できた。

その喜びが込み上げて、俺は二人の前で泣いてしまった。

しばらくして、ようやく気持ちが落ち着いてくる。

久しぶりにエレナに身支度を手伝ってもらい、俺は一階へと降りていった。

着替えを整え、髪もきちんと直してもらった。

こうしてエレナに世話をしてもらうのも、本当に久しぶりだ。

いつもなら自分でできることでも、昔から慣れ親しんだ人にやってもらうと、なんだか安心する。

そんなことを考えながら階段を下り、玄関ホールへと足を踏み入れた。

そして――

「…………え?」

思わず足が止まった。

ホールには、見覚えのある顔が並んでいた。

ベアトリスをはじめとする、武術侍女たちだった。

「えーーーーーっ!?」

思わず大声が出た。

「な、なんでいるのーーー!?」

驚きが一気に吹き飛び、俺は駆け出した。

そして、そのままベアトリスに飛びつく。

「ベアトリス!」

「わっ!? ア、アルヴィン様!?」

突然抱きつかれたベアトリスが、慌てて俺を受け止めた。

そんなことはお構いなしに、俺は彼女をぎゅっと抱きしめる。

「会いたかった!」

「そ、それは……私もです、アルヴィン様」

ベアトリスの声が、少しだけ震えていた。

顔を上げると、彼女は困ったような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべている。

俺はベアトリスから離れると、今度は隣にいた武術侍女に抱きついた。

「みんなも!」

「まあ、アルヴィン様ったら!」

「ふふっ、ずいぶん甘えん坊になられましたね」

「本当に大きくなられましたねえ」

次々と抱きついていく俺を、彼女たちは笑いながら受け止めてくれた。

そして、俺の頭に手が伸びる。

わしゃわしゃ。

わしゃわしゃわしゃ。

「ちょ、ちょっと! 髪が乱れるって!」

そう抗議しても、誰も手を止めてくれない。

「よしよし、よく頑張りましたね」

「大変でしたね、アルヴィン様」

「もう、皆さん! アルヴィン様が困っていらっしゃいます!」

ベアトリスが止めようとしてくれたが、彼女自身も俺の頭を優しく撫でている。

……いや、これ。

俺、完全に犬扱いされてない?

昨日は、五百人近い賊との戦いだった。

領主として判断を下し、作戦を指揮して、戦いの後も後始末に追われた。

正直、心身ともに疲れ切っていた。

それでも、こうして懐かしい顔に囲まれていると、張り詰めていたものが少しずつ緩んでいく。

みんなに頭を撫でられるのも、嫌じゃない。

むしろ、すごく嬉しい。

でもさ。

「……俺、犬みたいだ」

ぽつりと呟くと、武術侍女たちの笑い声が一段と大きくなった。

「ふふっ、可愛らしいではありませんか」

「アルヴィン様は昔から、こういうところがおありでしたね」

「ちょっと待って!? 昔から!?」

俺が慌てて聞き返すと、また笑い声が上がった。

……なんだろう。

みんながいるだけで、ここが懐かしい場所になった気がする。

* * *

その後、俺たちは食堂へ移動し、朝食を取ることになった。

リリア母様とエレナ、ベアトリスたち武術侍女。

久しぶりに大勢で囲む食卓は、いつもよりずっと賑やかだった。

あちこちで会話が弾み、笑顔がこぼれる。

俺も、いつもより食が進んだ。

誰かと一緒に食べる朝食が、こんなに嬉しいものだったなんて。

領主になってから、食事をする時間も、どこか仕事の延長のようになっていた気がする。

けれど、今は違う。

目の前には母様がいて、エレナがいて、ベアトリスたちがいる。

それだけで、胸の奥が温かくなった。

朝食を終えると、俺たちは談話室へ移動した。

食堂とは違い、落ち着いた雰囲気の部屋だ。

ソファに腰を下ろすと、みんなもそれぞれ席についた。

これから話すのは、領地の現状について。

そして、母様たちが王宮を離れて、ここへ来ることになった経緯だ。

「まず、領地のことなんだけど……」

俺は、昨日起きた賊の襲撃について話し始めた。

国境の関所から賊が侵入したこと。

賊たちがローデンの町に押し寄せたこと。

そして、事前に準備していた作戦によって、賊を撃退し、多数を捕らえることができたこと。

最後に、事件に関与していた代官を拘束したことも伝えた。

「今のところ、町の人たちに大きな被害は出ていないよ。領地の警備も立て直しているし、ひとまず安心していいと思う」

そう説明し終えたところで、俺はようやく息をついた。

これで、みんなも安心してくれるだろう。

……そう思っていた。

「アル」

リリア母様の声がした。

「はい?」

「危ないことをしないの!」

「……はい?」

思わず聞き返してしまった。

母様は笑っていなかった。

「あなたはまだ子供なんだから! そんな大勢の賊が襲ってきたのよ? 何かあったらどうするつもりだったの!」

「そ、そうです! アルヴィン様!」

隣からエレナも声を上げる。

「無茶は駄目だと、あれほど申し上げたではありませんか!」

「ええっ!? でも、俺は前線には出ていなかったよ?」

慌てて弁解する。

「周りには騎士もいたし、ちゃんと準備もしていたんだ。それに、俺だってけっこう強くなったんだよ?」

少しだけ胸を張ってみせた。

実際、以前の俺と比べれば、戦う力は大きく伸びている。

自分の身を守るくらいなら、以前よりずっとできるようになった。

……と思う。

しかし。

「アルヴィン様」

今度は、ベアトリスの声がした。

にこり、と笑っている。

けれど、その目は笑っていなかった。

「少し見ない間に、ずいぶんと調子に乗っていらっしゃいますね」

「えっ?」

「なるほど。ご自分がどれほど強くなったのか、確かめたいと?」

「いや、そういう意味じゃ……」

「分かりました」

ベアトリスは、実に爽やかな笑顔を浮かべた。

「後ほど、少し厳しめの鍛錬をいたしましょうね」

その瞬間。

周囲にいた武術侍女たちの目が、ギラリと光った。

「私たちもお手伝いしますね」

「せっかくですから、アルヴィン様の成長を確認しませんと」

「えっ、ちょっと待って!?」

俺は思わずソファの背もたれに身を引いた。

いやいやいや。

久しぶりの再会だよね?

感動の再会だったよね?

どうしてこうなった!?

リリア母様とエレナは、そんな俺を見て、ようやく少しだけ表情を緩めた。

けれど、二人とも心配していることに変わりはない。

……はい。

次からは、もう少し心配をかけないようにします。

たぶん。

そんな俺の心の声が聞こえたわけでもないだろうが、ベアトリスは満足そうに頷いていた。

どうやら、逃げ道はなさそうだった。

* * *

ひとしきり賑やかなやり取りが落ち着いたところで、今度は俺が尋ねた。

「それで……母様たちは、どうしてここに?」

本当は、さっきからずっと気になっていた。

リリア母様とエレナが来てくれたことだけでも驚きなのに、まさかベアトリスたちまで一緒に来るなんて思っていなかった。

リリア母様は、俺の顔を見て微笑んだ。

「少し前に、あなたからの手紙を受け取ったでしょう?」

「うん」

あの手紙で、俺は母様たちにこちらへ来ないかと伝えた。

領地の状況や安全対策についても、できるだけ詳しく説明したつもりだった。

「その後、王妃様ともお話ししたの」

「王妃様と?」

「ええ。私があなたのもとへ行きたいことを伝えて、了承していただいたのよ」

そうだったのか。

母様が王妃様と話をしていたことは知らなかった。

「国王陛下も、特に反対はなさらなかったわ」

母様は、どこかあっさりとした口調で続けた。

「あなたのもとへ行くことを伝えたら、すぐに許可してくださったの」

……父上らしいと言えば、父上らしい。

俺が王宮を離れることになったときも、あれほどあっさりと決められてしまった。

母様が王宮を離れることについても、特に引き止めるつもりはなかったのだろう。

もちろん、母様自身が望んだことなのだから、許可したこと自体は不思議ではない。

けれど、少し複雑な気持ちにはなった。

母様は、そんな俺の気持ちを察したのか、そっと微笑んだ。

「それでね。許可をいただいたら、あとは早かったわ」

「早かった?」

「ええ。引っ越しの準備を済ませて、すぐに王宮を出たの」

母様は、まるで当たり前のことのように言った。

「あなたがいない王宮に、これ以上未練はなかったもの」

その言葉に、俺は何も言えなくなった。

母様にとって、王宮での暮らしは、決して幸せなものではなかったのだろう。

俺がいなくなってから、なおさら。

それでも、母様は今、俺の目の前で笑っている。

その笑顔を見ていると、ここに来てもらえて本当によかったと思った。

「……そっか」

俺は小さく頷いた。

「来てくれて、ありがとう。母様」

「ふふっ。こちらこそ、迎えてくれてありがとうね、アル」

母様が優しく俺の頭を撫でた。

その手の温もりが、嬉しかった。

すると、今度はベアトリスたちが口を開いた。

「私たちも、リリア様についてくることにしたんです」

「え? みんなも?」

俺が驚いて聞き返すと、武術侍女たちは顔を見合わせた。

「はい。実は、以前から言われていたんですよ」

ベアトリスが、少し苦笑しながら説明してくれた。

「アルヴィン様のもとへ行くのであれば、勘当する、と」

「……勘当?」

思わず眉をひそめた。

そんな話になっていたのか。

「ええ。でも、私たちは別に構わないと思っていました」

ベアトリスは、迷いなく言い切った。

「私たちを雇ってくださったのは、アルヴィン様ですから」

その言葉に、他の武術侍女たちも頷いた。

「その後はリリア様にお仕えしていましたけれど、王宮での暮らしには、もううんざりしていたんです」

「……うんざり?」

「はい」

別の侍女が、少しだけ表情を曇らせた。

「リリア様への嫌がらせを、ずっと見てきましたから」

談話室の空気が、わずかに変わった。

「表立って何かを言う方もいれば、陰で嫌味を言ったり、わざと困らせたりする方もいました。貴族の方々の振る舞いを見ているうちに、あの場所にいること自体が嫌になってしまったんです」

「私たちだって、家族と離れるのは寂しいですよ」

別の侍女が、少し困ったように笑った。

「でも、二度と会えないわけではありませんから」

「そうです。それに……」

ベアトリスは、俺の方を見た。

「アルヴィン様のもとにいた方が、きっと楽しいと思ったんです」

「えっ?」

思わず間の抜けた声が出た。

「楽しいって……」

「だって、そうでしょう?」

ベアトリスは、当然のことのように言った。

「アルヴィン様は、私たちを道具のようには扱いません。私たちの働きを認めてくださいますし、頑張ったこともきちんと見てくださいます」

「それに、アルヴィン様の周りでは、いつも何か新しいことが起きますからね」

「そうそう。退屈する暇がありませんもの」

武術侍女たちが、次々と口を挟んだ。

……いや。

それ、褒められているんだよね?

俺は少しだけ不安になった。

確かに、領地に来てからはいろいろなことが起きている。

領地の整備に、新しい町の開発。

賊の襲撃に、代官の逮捕。

……うん。

確かに、退屈とは無縁かもしれない。

「それに、これからはアルヴィン様のおそばで、またお仕えできますから」

ベアトリスは、真っすぐに俺を見つめた。

「私たちは、それが一番嬉しいんです」

その言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと温かくなった。

母様も、エレナも、ベアトリスたちも。

みんな、それぞれの事情があって、ここへ来てくれた。

王宮での立場や、貴族としてのしがらみ。

家族と離れる寂しさだって、きっとあるはずだ。

それでも、俺のもとへ来ることを選んでくれた。

「……そっか」

俺は、みんなの顔を見回した。

「みんな、来てくれてありがとう」

今度は泣かない。

そう思ったのに、少しだけ目の奥が熱くなった。

「これからも、よろしくね」

俺がそう言うと、みんなが笑顔で頷いてくれた。

……ただし。

「では、アルヴィン様」

ベアトリスが、にっこりと笑った。

「午後の鍛錬を楽しみにしていてくださいね」

「まだその話、終わってなかったの!?」

談話室に、また笑い声が響いた。

どうやら俺の新しい生活は、思っていた以上に賑やかなものになりそうだった。