転生したのでしょうがなく 075 激突 | aitocolab ブログ 

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只の妄想を
アウトプット出来る時代に
感謝

ローデンの町に、真夜中が訪れていた。

月明かりのない空の下、町は静寂に包まれている。

家々の窓には明かりもなく、住民たちはすでに眠りについていた。

そんな静かな町で、門がゆっくりと開き始める。

ギィ……。

軋んだ音が、夜の闇に溶けていく。

開いた門の向こうから現れたのは、厳つい顔つきの男たちだった。

身に着けている武具は、統一感がない。

使い古された革鎧に、傷だらけの金属鎧。

手にしている武器も、剣や斧、槍など様々だった。

まともな軍隊とは到底呼べない。

しかし、その人数は尋常ではなかった。

男たちは互いに目配せをしながら、次々と町の中へ入り込んでいく。

これから始まることを想像しているのか、彼らの口元には不気味な笑みが浮かんでいた。

抵抗する者などいない。

眠っている住民を襲い、金目の物を奪い、逆らう者がいれば力でねじ伏せる。

そんな光景を思い描いているのだろう。

彼らにとって、今夜は獲物を狩るための夜だった。

やがて、町の門前にある広場へ、男たちが集まり始める。

一人、また一人。

その数は増え続け、ついには総勢五百人に達した。

広場は、男たちの姿で埋め尽くされていた。

「よし、全員いるな?」

ひときわ体格のいい男が、周囲を見渡しながら声を張り上げた。

賊たちを率いる、リーダー格の男だった。

「まずは二手に分かれろ。逃げ道を塞いで、屋敷へ向かう連中は俺の合図を待て。住民どもを起こすなよ。騒ぎになったら面倒だ」

男は、これから始まる襲撃を疑っていなかった。

関所は問題なく通過できた。

町の門を開ける手引きも、予定どおりだった。

衛兵も買収済み。

領主側が異変に気づいている様子もない。

あとは、計画どおりに動くだけ。

そう考えていた、そのときだった。

ギィ……。

背後から、再び軋む音が聞こえた。

男が振り返る。

町の門が、ゆっくりと閉じ始めていた。

「……あ?」

最初は、誰かがうっかり閉めたのだと思った。

だが、門は止まらない。

重々しい音を立てながら、少しずつ閉じていく。

やがて、大きな音とともに門が閉ざされた。

広場に、奇妙な沈黙が落ちる。

「おい……どういうことだ?」

賊たちの間に、ざわめきが広がり始めた。

「誰が門を閉めた?」

「いや、俺じゃねえぞ」

「衛兵どもは何をやってやがる?」

リーダーの男は、苛立たしげに舌打ちした。

「誰か馬鹿が閉めやがったのか?」

周囲を睨みつけ、怒鳴り声を上げる。

「おい! 誰が閉めやがった!」

返事はない。

「後でぶっ殺してやる!」

そして、近くにいた賊の一人を指さした。

「おい、お前! 門の様子を見てこい!」

「はっ!」

命じられた男は、周囲を警戒しながら門へと近づいていく。

あと少しで門に手が届く。

その瞬間だった。

ヒュッ。

闇を切り裂く、かすかな音。

次の瞬間、男の頭に矢が突き刺さった。

「……がっ」

短い声を漏らし、男はその場に崩れ落ちた。

バタリ。

誰もが、一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

倒れた男を見つめる賊たち。

そして――。

ヒュヒュヒュヒュッ!

四方から、矢の雨が降り注いだ。

「伏せろ!」

誰かが叫んだ。

だが、その声が響き終わる前に、何人もの賊が矢を受けて倒れていく。

「敵襲だ!」

「どこから撃ってやがる!」

「壁際へ逃げろ!」

広場は一瞬にして混乱に包まれた。

身をかがめ、近くの建物の陰へ飛び込む者。

倒れた仲間の体を盾にして、必死に矢を防ぐ者。

何が起きているのか分からず、門へ向かって走り出す者。

指示を出そうにも、飛び交う矢と怒号に声がかき消される。

賊たちは、完全に不意を突かれていた。

相手が誰なのか。

何人いるのか。

どこに潜んでいるのか。

そのすべてが分からない。

一方的な攻撃に、彼らの顔から余裕が消えていく。

しかし――。

五百人の賊が、全員同じようにうろたえていたわけではなかった。

広場の一角に、明らかに様子の違う集団がいた。

およそ五十人。

他の賊たちと比べ、身に着けている装備が明らかに良い。

鎧は手入れされ、盾も統一感がある。

そして、何よりも彼らは落ち着いていた。

矢が降り注ぐ中、互いに声を掛け合いながら素早く集まる。

前列が盾を構え、後列がその隙間を埋める。

個々が好き勝手に動くのではなく、仲間と連携して矢を防いでいた。

「盾を上げろ! 固まれ!」

一人の男が叫ぶ。

その声に従い、集団は防御を固めた。

矢が盾に突き刺さり、乾いた音が連続する。

やがて、矢の勢いが弱まった。

その瞬間、彼らは動いた。

「門から離れろ! 反対側へ抜けるぞ!」

判断は速かった。

この場に留まり続けるのは危険だ。

ならば、攻撃の手が薄い場所へ移動し、態勢を立て直す。

彼らは集団の形を崩さず、広場の反対側へ向かって走り出した。

だが、それもアルヴィンの想定の範囲内だった。

町の中へ賊を散らばらせてしまえば、状況は一気に複雑になる。

路地に入り込まれれば、こちらの兵も少人数で対応せざるを得なくなる。

住民の家へ逃げ込まれたり、建物を盾にされたりすれば、戦いは長引き、被害が増える可能性もある。

だからこそ、町の中で自由に動ける場所を減らしておく必要があった。

各道路には、あらかじめ簡易的なバリケードが設置されていた。

賊たちが移動を始めると、待機していた眷属たちが連携し、通路を塞いでいく。

木材や荷車を利用した障害物が、次々と道をふさいだ。

「くそっ! こっちも塞がれてやがる!」

「別の道だ! 回り込め!」

精鋭集団は、すぐに進路を変えようとした。

しかし、別の道にもバリケードがある。

正面から突破するしかない。

そのとき、集団の後方から一人の男が進み出た。

男は、杖を構える。

周囲の空気が、わずかに揺らいだ。

「詠唱だと……?」

眷属の一人が気づいたときには、すでに遅かった。

男の口から呪文が紡がれ、杖の先に赤い光が集まっていく。

次の瞬間、炎が生まれた。

ゴウッ!

放たれた炎がバリケードへと激突する。

爆ぜるような音が響き、木材が砕け散った。

炎と煙が夜空へ立ち上り、塞がれていた道に突破口が開く。

「今だ! 突っ込め!」

精鋭集団は、一斉に走り出した。

その動きには迷いがない。

明らかに、ただの賊とは違う。

魔法を扱う者がいるだけでも厄介だが、それ以上に、彼らは戦況を見て判断する能力を持っていた。

アルヴィンは、離れた位置から戦場を見渡していた。

念話を通じて届く情報と、眷属たちからの報告。

それらを照らし合わせながら、戦いの流れを把握している。

「……やっぱり、あの五十人は別格か」

普通の賊なら、ここまで組織的には動けない。

装備の差もそうだが、状況が悪くなったときの判断が速い。

このまま放置すれば、町の中で混戦になる可能性が高い。

そうなれば、こちらにも被害が出る。

アルヴィンは、唇を引き結んだ。

せっかく住民への被害を抑えるために準備したのだ。

このまま相手のペースに持ち込ませるわけにはいかない。

彼は、精鋭集団を監視している眷属の指揮官へ念話を送った。

『今すぐ、部隊全員に目を閉じるよう指示してくれ』

『全員ですか?』

『そうだ。理由は後で説明する。合図があるまで、絶対に目を開けるな』

一瞬の間を置いて、返事が届いた。

『承知しました。部隊へ伝達します』

アルヴィンは、精鋭集団の動きを見つめた。

魔法を使える者がいるのなら、こちらも魔法で対処する。

ただし、無差別に攻撃するつもりはなかった。

狙うのは、敵の動きを止めること。

そして、その隙を使って、できるだけ相手を傷つけずに無力化することだった。

やがて、念話が届く。

『アルヴィン様。部隊全員、目を閉じました』

「よし……」

アルヴィンは、静かに息を吸った。

そして、魔法を発動する。

狙いは、精鋭集団の中心。

光魔法によって生み出された光が、夜の広場を一瞬で塗りつぶした。

閃光。

それは、単に明るいというだけのものではなかった。

暗闇に慣れた目に、至近距離から強烈な光を浴びせられたような衝撃。

精鋭集団の男たちは、突然の光に目を押さえ、叫び声を上げた。

「ぐあっ! 目が!」

「何も見えねえ!」

「どこだ! 敵はどこにいる!」

視界を奪われた彼らは、たちまち動きを乱した。

盾を構えようにも、仲間の位置すら分からない。

魔法士も、次の詠唱へ移ることができない。

その一瞬を、眷属たちは逃さなかった。

「今だ! 武器を叩き落とせ!」

「盾を押さえろ! 抵抗できない者から拘束しろ!」

事前に指示を受けていた部隊が、一斉に動き出す。

目を閉じていた者たちは、閃光が収まるのを待ってから行動に移った。

武器を持つ手を押さえ、盾を奪い、倒れた者には素早く拘束具をかける。

抵抗する者もいたが、視界を失った状態では、組織的な反撃はできなかった。

魔法士も、詠唱を再開する前に取り押さえられた。

精鋭集団の動きが止まると、戦場の状況は一変した。

指揮を執る者がいなくなった賊たちは、次第に統制を失っていく。

その後も眷属たちは連携を崩さず、逃げ道を塞ぎながら、抵抗する者を一人ずつ無力化していった。

やがて、広場に響いていた怒号も少しずつ減っていく。

剣戟の音が途絶え、抵抗する声も聞こえなくなった頃。

五百人の賊は、ほぼ全員が討伐、あるいは捕縛された。

戦いは、終わった。

アルヴィンは、すぐには安堵しなかった。

戦闘に勝つことと、こちらの被害が少ないことは別の話だ。

「負傷者の確認を急いでくれ。重傷者を優先して手当てを。捕らえた者の武器も、確実に回収するんだ」

念話を通じて、各部隊へ指示を出す。

しばらくして、報告が届き始めた。

眷属たちの負傷者は出ている。

だが、幸いにも――。

「アルヴィン様。こちらの部隊に、死亡者はいません」

その報告を聞いた瞬間、アルヴィンは大きく息を吐いた。

「……そうか。よかった」

思わず、肩の力が抜ける。

誰も死ななかった。

それだけで、どれほど救われたことか。

もちろん、負傷者がいる以上、何もかもが無事に終わったわけではない。

それでも、事前に準備を重ね、戦い方を考え、仲間たちと相談してきたことが、少しは実を結んだのだと思えた。

アルヴィンは、ゆっくりと目を閉じた。

自分の判断で、この戦いを起こした。

賊が町へ侵入することを許し、内通者をあぶり出すために、あえて迎え撃つ場所を選んだ。

その結果が、目の前にある。

勝利したからといって、すべてが正しかったと断言することはできない。

けれど、少なくとも、守りたかった人々を守るために、自分のできる限りのことはした。

そう思いたかった。

やがて、アルヴィンは戦場となった広場へ足を運んだ。

そこは、先ほどまでとはまるで違う場所になっていた。

地面には血が流れ、壊れた武器や盾が散乱している。

矢が突き刺さった木箱。

砕けたバリケード。

倒れたまま動かない賊たち。

周囲には、血の匂いが漂っていた。

戦いが終わったという実感よりも、目の前の光景が現実なのだという事実のほうが、強く胸に迫ってくる。

アルヴィンは、思わず視線をそらした。

人が傷つき、倒れている。

それは、魔物との戦闘で何度も経験してきた光景とは違っていた。

相手は人間だ。

敵として戦った相手であっても、同じ人間であることに変わりはない。

その事実が、頭から離れなかった。

そんなとき、転生時に得たスキルが働いた。

あまりに凄惨な光景に対し、視界に自動的なモザイクがかかったのだ。

アルヴィンは、思わず小さく息を吐いた。

「……助かった」

この世界に来る前の自分なら、こんな光景を目の当たりにすれば、きっと強い衝撃を受けていただろう。

いや、今だって平気なわけではない。

見なくて済むのなら、それに越したことはない。

もしかしたら、こうした光景は、いつまでも心に残るのかもしれない。

そう考えると、視界を和らげてくれるこのスキルには、感謝せずにはいられなかった。

もっとも、モザイクがかかったところで、目の前で何が起きたのかまで消えるわけではない。

自分が命じた作戦によって、こうなったのだ。

その事実から逃げるつもりはなかった。

アルヴィンは、しばらくその場に立ち、現場の処理を見守った。

負傷者は運び出され、捕縛された賊たちはまとめられていく。

武器や装備も回収され、広場の各所では、眷属たちが忙しそうに動き回っていた。

まだ、やるべきことは多い。

捕らえた者たちの身元を確認し、関所で手引きをした兵士や、町の門を開けた内通者を特定しなければならない。

賊を裏から支援していた者がいるのなら、その証拠も集める必要がある。

戦いが終わったからといって、問題がすべて解決したわけではなかった。

それでも、今夜の襲撃は食い止めた。

ローデンの町が、賊の手に落ちることはなかった。

そして、少しずつ空が白み始めた。

遠くの森の向こうから、朝日が昇ってくる。

「……もう朝か」

アルヴィンは、疲れた声で呟いた。

長い夜だった。

戦闘そのものは、想定していたよりも早く終わった。

だが、報告を受け、状況を判断し、指示を出し続けた時間は、思っていた以上に長く感じられた。

朝の光が町並みを照らし始めると、家々の扉が少しずつ開き始めた。

物音に気づいていた住民もいたのだろう。

不安そうな顔をした人々が、恐る恐る外へ出てくる。

やがて、広場の周辺には、何が起きたのかを確かめようとする野次馬が集まり始めた。

彼らの視線は、壊れたバリケードや、片付けられていく武器、忙しく動く兵士たちへ向けられている。

昨夜、何が起きたのか。

なぜ、これほど大勢の兵士が集まっているのか。

そして、自分たちの町は、これからどうなるのか。

住民たちが不安を感じるのも無理はなかった。

アルヴィンは、その様子を少し離れた場所から見つめていた。

きっと、彼らも怖かっただろう。

夜中に響いた物音や、遠くから聞こえた叫び声。

何が起きているのか分からないまま、朝を迎えた者もいるはずだ。

領主として、住民たちに安心して暮らせる環境を用意したかった。

そのために、今回の作戦を実行した。

だが、戦いが終わった今、住民たちの不安を取り除くことも、自分の役目だった。

アルヴィンは、集まった人々を見渡した。

まずは、何が起きたのかを説明しなければならない。

そして、今後も町の安全を守ることを伝える必要がある。

すべてが元どおりになるには、まだ時間がかかるだろう。

それでも、ここから先は、領主として自分が責任を持って進めていく。

アルヴィンは、朝日に照らされたローデンの町を見つめながら、静かに決意を固めた。