領地に到着した俺たちは、
そのまま町へと入った。
町の入口を抜けたところで、
数人の男たちが待っていた。
その中心にいるのは、
この領地を任されている代官。
「アルヴィン公爵閣下。このたびのご叙爵、誠におめでとうございます」
代官は恭しく頭を下げた。
「ありがとう」
俺は軽く返事をした。
公爵になったと言われても、正直なところ、あまり実感はない。
それに、今はそんなことよりも、これから暮らす屋敷の方が気になっていた。
「それでね、これから屋敷をリフォームしようと思ってるんだ」
「ほう。それはよろしいことでございますな。よろしければ、腕の良い大工をご紹介いたしましょうか?」
「ううん、大丈夫。大工さんたちは、こっちで用意してるから」
俺はあっさりと答えた。
せっかく申し出てくれたのだから、お礼くらいは言っておこう。
「気遣ってくれてありがとう」
「……左様でございますか」
代官は一瞬だけ表情を変えたが、すぐに笑顔に戻った。
「それでは、屋敷の改修が終わるまで、どちらにご滞在なさるのでしょうか?」
「今日は宿屋に泊まるよ。屋敷はまだ住める状態じゃないからね」
「それでしたら、宿屋の手配も
私にお任せください」
「ありがとう。でも、宿屋も自分たちで探すから大丈夫だよ」
俺はそう答えると、代官との話を切り上げた。
以前、この領地に立ち寄ったときに、
屋敷の状態は確認している。
長い間、まともに手入れされていなかった
建物だ。
すぐに住める状態ではないことは、
最初から分かっていた。
「じゃあ、みんな。さっそく屋敷を見に行こうか」
俺が声をかけると、
同行していた眷属たちが頷いた。
今回、改修を担当してくれるのは、
大工や建築関係の職人たちだ。
屋敷に到着すると、さっそく
内部を確認していく。
「うーん、やっぱり直すところが多そうだね」
「そうですね。ですが、建物の構造を確認すれば、残せる部分もあると思います」
「そっか。それなら、できるだけ使えるところは残したいな」
俺は屋敷の中を見回した。
せっかく自分の屋敷を持つのだから、快適に
暮らせる場所にしたい。
かといって、金ピカの家具を並べたような、
成金趣味の屋敷にするつもりはない。
「地味すぎるのも嫌だけど、派手すぎるのも嫌なんだよね」
「なるほど。落ち着いた雰囲気を基本にしつつ、要所に装飾を加える形はいかがでしょうか?」
大工の一人が提案してくれた。
「うん、それがいいな」
そこで、俺はAIにも相談することにした。
『AI、屋敷のリフォームについて相談したい』
『承知しました。どのような
屋敷にしたいとお考えですか?』
『落ち着いた感じがいいな。でも、
ちょっとくらいは格好よくしたい』
『それでしたら、外観は石造りを基本とし、装飾は控えめにするのはいかがでしょうか。玄関や応接室など、一部に意匠を凝らせば、品格と華やかさを両立できます』
「おお、それいいね!」
AIの提案を聞きながら、俺は大工たちにも
意見を聞いていく。
「部屋の配置も使いやすくしたいんだ。応接室とか書斎とか、必要な部屋をちゃんと分けたいな」
「お任せください。生活の動線も考えて設計いたします」
「ありがとう。専門的なことは、みんなに任せるよ。僕じゃ分からないことも多いからね」
俺一人では思いつかないことも、眷属たちなら知っている。
だからこそ、彼らの意見を聞きながら進めたいと思っていた。
「それとね、もう一つお願いがあるんだけど……」
「何でしょうか、アル様?」
「温泉が欲しい!」
俺がそう言うと、大工たちは顔を見合わせた。
「温泉、ですか?」
「うん! せっかくなら、お風呂でゆっくりできる場所が欲しいんだよね」
『温泉を設ける場合、まずは領地内に温泉源が存在するか調査する必要があります』
AIが冷静に指摘した。
『温泉源が確認できれば、専用の浴場を設計できます』
「あっ、そっか。温泉がなかったら作れないもんね」
俺は少し考えてから、大工たちに向き直った。
「じゃあ、まずは温泉があるか調べてもらえるかな? もし見つかったら、温泉付きのお風呂を作りたいんだ」
「承知しました。周辺の地形や水源を調べてみましょう」
「ありがとう。よろしくね!」
こうして、屋敷のリフォーム計画が始まった。
外観も内装も、これからの生活を考えながら決めていく。
派手すぎず、地味すぎず。
自分が落ち着いて暮らせる屋敷にしたい。
そして、できることなら温泉も。
「完成するのが楽しみだなあ」
俺は、改修後の屋敷を想像しながら笑った。
◇
一方、その頃。
領地の代官は、自分の屋敷で酒を飲んでいた。
部屋には金色の装飾が施された家具や、
必要以上に豪華な調度品が並んでいる。
壁には高価そうな絵画が飾られ、テーブルの上には上等な酒と料理が用意されていた。
代官はグラスを傾けながら、昼間の出来事を
思い返していた。
「まったく、ガキのくせに生意気な奴だ」
代官は不機嫌そうに呟いた。
せっかく大工を紹介してやろうとしたのに、
あっさり断られてしまった。
もちろん、親切心から申し出たわけではない。
紹介した大工から紹介料を受け取る。
それが、代官の狙いだった。
領主が屋敷を改修するとなれば、
それなりの金が動く。
大工を紹介してやれば、仕事を得られるのだから、紹介料を支払うのも当然だ。
少なくとも、代官はそう考えていた。
「まあ、いいさ」
グラスの中の酒を揺らしながら、
代官は口元を歪めた。
「まだガキだからな。上手いこと言えば、
こっちの言うことを聞くだろう」
公爵という爵位を与えられたとはいえ、
相手はまだ十歳の子供だ。
大人の言うことを聞かせるくらい、
難しくはない。
代官はそう考えていた。
「せいぜい、上手く利用させてもらうとするか」
そう呟くと、代官は再びグラスを傾けた。
その顔には、領地を治める者としての責任感など、微塵も感じられなかった。