転生したのでしょうがなく 042  地固め | aitocolab ブログ 

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只の妄想を
アウトプット出来る時代に
感謝

アルヴィンの日常に、大きな出来事は少ない。


厳密に言えば、眷属たちに命令すれば、
間接的にできることは多い。

情報を集め、商売を広げ、人を動かす。

しかし、アルヴィンはベルク王国の第一王子であり、まだ九歳の子供だ。

自分自身が表立って動けば、周囲から余計な警戒を招く可能性がある。できることが多いからといって、何でも自由に行動できるわけではなかった。

眷属を増やし、組織を整えることは大切だ。

だが、それとは別に、アルヴィンは人間の配下も欲しいと考えていた。

もちろん、王座争いをするためではない。

自分の生活を守り、大切な人たちを守るため。そして、将来、自分の力だけでは手が届かない問題に直面したとき、共に動いてくれる仲間が欲しかったのだ。

とはいえ、貴族の派閥を
作るつもりはなかった。

今の自分が特定の貴族を取り込もうとすれば、政治的な思惑が絡み、余計な争いを招きかねない。それに、家の利益を優先する貴族が、必ずしも自分の望む方向へ
動いてくれるとは限らない。

ならば、これから成長する人材を、自分の手で育てる方法はないだろうか。

そこで思いついたのが、国内の孤児たちを保護し、教育することだった。

単純に考えれば、
将来の人材を確保するための計画である。

孤児たちに衣食住を保障し、文字の読み書きや計算、礼儀作法、
社会で暮らすための常識を教える。

成長した後は、
本人の適性や希望に応じて仕事を紹介する。

その中から有能な人材が見つかれば、自分の仕事を手伝ってもらうこともできるだろう。

一人ずつ人材を探し、教育するよりも、最初から学ぶ環境を用意した方が効率的だ。

だが、アルヴィンが孤児院を作ろうと考えた理由は、それだけではなかった。

――子供くらい、守ってやりたい。

それは、王族としての責任感なのか。

それとも、前世から持ち越した正義感なのか。

おそらく、両方なのだろう。

孤児たちが親を失った理由は、それぞれ違うはずだ。魔物に襲われた者もいれば、病気や事故で家族を失った者もいる。貧困によって、親と一緒に暮らせなくなった子供もいるだろう。

この世界では、親を失った子供が十分な教育を受けられるとは限らない。

生きるために働き、食べるものにも困り、まともな仕事に就く機会すら得られないまま成長する者もいる。

そんな子供たちに、学ぶ機会を与えたい。

それくらいのことは、
してもいいのではないか。

そして、教育を受けた子供たちが成長すれば、本人たちだけでなく、
国にとっても利益になる。

読み書きや計算のできる人間が増えれば、商店や工房で働ける者が増える。帳簿や契約書を扱える人材が育てば、商売も進めやすくなる。

仕事を得て自立できる人間が増えれば、貧困を理由に犯罪へ走る者を減らすことにもつながるだろう。

治安が安定すれば商人が活動しやすくなり、商業が発展すれば税収も増える。

もちろん、孤児院を一つ作っただけで国が変わるわけではない。

教育には金も時間もかかるし、全員が優秀な人材になる保証もない。

それでも、長い目で見れば、教育への投資は国全体の利益につながる可能性がある。

人材を育てることは、自分のためになる。

子供たちを守ることは
、王族としての務めにもなる。

そして、その積み重ねが、国を少しずつ豊かにするかもしれない。

アルヴィンにとっては、どれか一つだけが目的というわけではなかった。

「……悪くない考えだと思うんだけどな」

そう呟きながらも、アルヴィンの表情は晴れなかった。

ふと、隣国ノルディアで勢力を拡大している、ある侯爵のことが頭をよぎった。

ヴァルター・グランツ侯爵。

彼は金で奴隷を買い、
働かせ、農地を広げている。

もちろん、孤児を保護して教育することと、奴隷を買って働かせることは違う。

本人の意思を尊重し、教育を受けた後の生き方を自分で選べるようにするなら、なおさらだ。

それでも、人を集め、自分の目的のために働いてもらうという点では、似ている部分もある。

――結局、俺も自分の都合で人を集めようとしているんじゃないか?

人材が欲しいのは事実だ。

子供たちを守りたいという気持ちも嘘ではない。

しかし、善意があるからといって、自分の行いがすべて正しくなるわけではない。

それに、配下として働いてもらう以上、いつか危険な仕事を任せることになるかもしれない。

場合によっては、
命を懸けてもらうことだってある。

綺麗事だけでは済まないのだ。

――俺に、その責任を負えるのか?

前世の自分は、
嫌なことから逃げてばかりだった。

何かを選ぶことを恐れ、失敗することを恐れ、結局は何もできなかった。

そして、後悔した。

せっかく二度目の人生を与えられたのだ。

もう、同じ後悔はしたくない。

「……やるだけやってみるか」

まずは、孤児たちが安心して暮らせる場所を用意する。

衣食住を保障し、読み書きや計算を教え、社会で生きていくための知識を身につけてもらう。

成長した後は、本人の希望や適性に応じて進路を選べるようにする。

自分の配下になるかどうかは、その先の話だ。

保護したことを理由に忠誠を強要するつもりはない。自立して普通に暮らせるようになるだけでも、十分に意味がある。

その中から、自分と同じ方向を
向いてくれる人が現れたなら、
そのときに手を差し伸べればいい。

計画の実施には、それなりの費用がかかる。

幸い、資金には余裕があった。

眷属たちが商売などで稼いでくれた金を使えば、当面の運営費は賄えるだろう。

ただし、いくら自分の能力で生み出した眷属とはいえ、彼らが稼いだ金を我が物顔で使うことには抵抗があった。

だからこそ、使い道には責任を持ちたい。

無駄遣いではなく、
人を育て、将来につながることに使う。

それならば、納得できる。

「まずは、できることからだな」

そう考えていたところで、アルヴィンは別のことを思い出した。

少し前、ベアトリスに頼んでいたことがある。

同級生の中で、仕事に困っている者がいれば紹介してほしい。

あれは、どうなっただろうか。

「エレナ、ベアトリスを呼んできてくれる?」

「かしこまりました」

エレナが部屋を出ていく。

しばらくすると、扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

「失礼いたします」

入室してきたのは、ベアトリスだった。

以前と比べると、立ち振る舞いがずいぶんと落ち着いている。

仕事での失敗も、目に見えて減っていた。

本人の努力もあるだろうが、その理由の一つはアルヴィンにもあった。

仕事で溜まったストレスを、アルヴィンとの剣術訓練で思い切り発散しているのだ。

その結果、仕事にも以前より集中できるようになったらしい。

「ベアトリス。前に頼んだ引き抜きの件だけど、どうなった?」

「はい。その件ですが……」

ベアトリスは、どこか困ったような顔をした。

「思っていた以上に、反応が良くてですね」

「反応が良い?」

「はい。同級生の間で話が広まったようで、働きたいという方が次々に現れまして……」

「次々に?」

「現時点で、九人ほどおります」

「九人!?」

思わず声が大きくなった。

まさか、そこまで集まるとは思っていなかった。

「皆さん、雇っていただけるのであれば、
すぐにでも働きたいとおっしゃっています」

「そんなに切羽詰まっているの?」

「それぞれ事情があるようです。就職に失敗した方もいれば、婚約がまとまらず、実家で肩身の狭い思いをしている方もいるそうです」

なるほど。

貴族の令嬢といっても、誰もが順風満帆というわけではないらしい。

家の都合で将来が決められたり、婚約が破談になったことで立場が悪くなったり。

表からは見えない
事情を抱えている者もいるのだろう。

「それだったら、一度会ってみようかな」

アルヴィンはそう答えた。

「もちろん、全員を雇うと約束するわけじゃないよ。人柄や能力も確認したいし、こちらの仕事に合わない人を雇うわけにもいかないからね」

「本当ですか!?」

ベアトリスの表情が明るくなった。

「うん。一度、話をしてみるよ」

「ありがとうございます! では、エリアさんと日時を調整いたしますので、よろしくお願いいたします」

「うん、お願いね」

ベアトリスは丁寧に一礼すると、部屋を出ていった。

その背中を見送りながら、
アルヴィンは考える。

九人か。

どんな人たちなのだろう。

それぞれに事情があるのだろうが、せっかくなら、本人たちの得意なことを生かせる仕事を用意したい。

そして、もう一つ。

「どんな武術を習えるのか、楽しみだな」

新しい人材に会えることも楽しみだが、アルヴィンの頭の中では、
すでに別の期待が膨らんでいた。

剣術だけでなく、
ほかの武術も学べるかもしれない。

体の使い方が違えば、
剣術にも生かせるはずだ。

そんなことを考えていると、
横からエレナの声が飛んできた。

「アルヴィン様。
鍛錬は程々になさってくださいね?」

「え?」

「これ以上、鍛錬に夢中になられたら……今の何倍も、撫でることになりますので」

エレナは、にっこりと微笑んだ。

その笑顔が、妙に怖い。

「……覚悟してくださいね?」

「えっ、マジ?」

アルヴィンは思わず身を引いた。

今でも、隙を見せれば頭を撫でられるのだ。

それが何倍にもなるなんて、想像したくもない。

「……いや、うん。今のままで十分かな」

剣術の上達には興味がある。

新しい武術を覚えることにも興味がある。

だが、撫でられる回数が何倍にもなるのは、さすがに遠慮したかった。

アルヴィンは、鍛錬への情熱と頭を撫でられる恐怖を天秤にかける。

そして、そっと結論を出した。

――ほどほどにしておこう。