異世電 006 欺きの転移 | aitocolab ブログ 異世界で魔人と戦ったら電力が溜まりすぎた件

偽装スキルによる

自己情報の書き換えが

終わった直後ーー

 

まるで、

それに合わせたかにように

亜空間全体が

ほのかに光はじめた。

 

「...時間切れか」

 

雷真がそう呟いた瞬間

光は一気に強まり、

眩しさに思わず目を閉じる。

 

遅れて、強い浮遊感が

全身をさらう。

 

身体の輪郭が薄れ

上も下もないような

感覚がしばし続いた。

 

やがてーー

確かな重力が戻ってきた。

 

足がとこかに触れ

眩しさがすっと消える。

 

ゆっくりと目を開く。

 

そこは、もう亜空間では

なかった。

 

天井は高く、

巨大なステンドグラスから

差し込む光が床に色の影を

落としている。

テレビでしか

見たことがないような

荘厳な大教会の内部にいた。

 

 

そして周囲には

教会関係者らしい服を

纏った人々が

大勢並んでいた。

 

ざわつき、

祈り、

驚きーー

さまざまな視線が

雷真に向けられている。

 

(...来たんだ。

本当に、異世界へ)

 

だが

胸の奥に湧き上がる感情は

異世界転移そのものの

感動ではなかった。

 

まず確認することは

ただひとつ。

ーー偽装スキルは

成功しているのか。

 

表情は絶対に出せないが

心の中で拳を握りしめていた。

 

宝がくじの一等が

当たったとしても

ここまでの喜びは

得られなかっただろう。

 

世界をーー騙せたのだ。

 

 

喜んでいたのもつかの間。

 

荘厳な空気を震わせるように

壇上で最も豪奢な衣を

まとった老人が一歩前へ出た。

 

 

「召喚魔法に応じてくださった

皆様」

 

低く、しかしよく通る声が

広間に広まる。

 

「お初にお目にかかります。

我は最高司祭 

エルド=ファルギア。

この大陸における

フルグルス教の

頂に立つものです」

 

重みのある名乗りに

周囲の人々が

一斉に頭を垂れた。

 

 

ーー皆様?

 

ゆっくり視線を巡らせる。

 

そこには、地球の人間だと

一目で分かる者たちが

9人、思い思いに立っていた。

 

 

スーツ姿の会社員風の男

学生らしい少女

寝巻き姿の青年

主婦らしき女性

その他、年齢も雰囲気も

ばらばらな人物たち。

 

(やっぱりいたか)

 

雷真は驚かなかった。

どちらかと言えば

確認作業に近い。

 

異世界ものでは

複数召喚も”定番イベント”

 

想定内だ。

 

9人は

明らかに混乱している者

視線を彷徨わせ考えている者

震え泣き出す者までいた。

 

雷真は

冷静でいられた。

 

理由はひとつ

ーー偽装が成功しているから。

 

世界を騙すという

大博打に勝ったという

事実が静かに自信となって

内部に満ちていた。

 

最高司祭は転移者たちの

混乱やざわめきに

動じることなく

静かに話し続けた。

 

「混乱されているとは

思います。

しかし、まずは現状を

ご説明しなければなりません」

 

「現在、この大陸は

魔獣の増加期に入っております。

そしてまもなく

魔人が現れると神様より

神託がありました」

 

聖堂内がざわりと揺れる。

周囲の神官たちも

互いに視線を交わし

どこか緊張を

含んだ表情を浮かべる。

 

 

「ゆえに、この世界は

戦力を必要としており

そのために

皆様方を召喚したのです」

 

 

最高司祭の言葉が

続く中

雷真は周囲の

同時転移者たちの

表情を改めて観察した。

 

ただ、呆然と

立ち尽くす男。

目を大きく見開き、

息をするのも忘れたような

顔で天井と司祭を

交互に見ている。

 

その隣では、

転移を好機と受け取ったのか

妙に目をぎらつかせている

青年がいた。

 

一方でスマホを握りしまたままの

女子高生が

肩を震わせて泣き始めた。

「帰りたい...帰りたい」

小さく絞る声が漏れ

近くの主婦らしき女性が

必死になだめている。

 

別の方向では

取得した能力を

試そうとしている男が1人。

指先に力を込め、

「...出ろ...ファイヤー...

出ない、ファイヤーボール、

なんで出ないんだ!出ろ」

とイラつきながら呟いているが

何も出ない。

 

雷真はその様子を眺めながら

内心でそっと肩をすくめた。

 

(...まあ、そうなるよな)

 

魔法による攻撃、

暴走、建物破壊

そういった事を防ぐために

こうした重要施設には

大抵”魔法不可術式”が

施されている。

 

それは異世界ものでは

スタンダード。

 

雷真にとって

説明不要レベルだった。

 

(大丈夫だよ、兄ちゃん。

外に出れば使えるようになるから

たぶん)