真冬の朝。
甲斐の山奥は、吐く息が白くなるほど冷え込んでいた。
村人が外へ出ると、珍しいものを見た。
あいたまけいが歩いている。
しかも、迷うことなく村の道を進んでいる。
村人は驚いて声をかけた。
「おや、あいたまけい。今日は歩くのか?」
あいたまけいは振り返り、
「うむ。」
と答えた。
「どうして?」
あいたまけいは少し考えた。
「今日はタバコを買いに行く。」
「タバコ?」
「そう。」
村人は首をかしげた。
「あいたまけいは歩くのが嫌いじゃなかったのか?」
すると、あいたまけいは不思議そうな顔をした。
「嫌いだ。」
「じゃあ、なぜ歩いてるんだ?」
「必要だから。」
それだけ言って、また歩き始めた。
村人は後をついていきながら尋ねた。
「でも、いつもなら歩かないだろう?」
あいたまけいは答えた。
「条件が整った。」
「条件?」
あいたまけいは指を一本立てた。
「まず、非常に寒い。」
吐く息が白くなる。
「寒い日は熱が籠もらない。」
二本目の指を立てる。
「それから、道をよく知っている。」
あいたまけいは迷うことなく角を曲がった。
「知らん道は行かん。」
さらに三本目。
「そして、目的地が一人で入りやすい。」
村人は目的地を見た。
そこには小さなタバコ屋があった。
あいたまけいほどの巨体でも、店の前までは来られる。
しかし、店内は狭い。
村人が言った。
「……本当に一人で入りやすいのか?」
あいたまけいは店を眺める。
「客がおらん。」
「それなら入りやすいな。」
「うむ。」
あいたまけいは店の戸を開けた。
ギィ……
店主が驚いて顔を上げる。
「いらっしゃい……」
あいたまけいは店内に入り、
「タバコをくれ。」
とだけ言った。
店主は慌てながら、
「ど、どれにします?」
と尋ねる。
あいたまけいは棚を眺める。
「いつもの。」
「いつものって……」
「いつものやつ。」
店主は困った。
「あいたまけいさん、うちで買うの初めてですよね?」
あいたまけいは黙った。
しばらく考えて、
「……そうだった。」
店主は笑った。
結局、村人に勧められたものを買って店を出る。
外に出ると、あいたまけいは満足そうだった。