初演が終わり、いつもの日常に戻りました
まだ記憶がフレッシュなうちに
『レクイエム』の思い出というか、
どのような旅路を経て初演にたどり着いたのか
書いていきたいと思います
私が初めてこの作品を踊ったのは2017年。
前に働いていたヴロツワフオペラで
ワールドプレミアをしました
下っ端で列の一番後ろで踊っていたし
出番は少ない方やったけれど、
この作品は大好きやったし
いくつか小さなソロを貰って
一生懸命頑張っていた記憶があります
そして去年の年明けに
うちのオペラで同じレクイエムをやると
発表があり、作品の重さを思い出して
久しぶりに大変な仕事や…と思うと同時に
絶対にいいものにしようと決意もしました。
去年の3月にリハーサルが始まったけれど
たった3回リハーサルをしただけで
コロナでロックダウンに。
疲れが溜まって身体をコントロールできなくなり
脱臼癖がひどくなって
些細なことで肩が抜けるようになってしまったり
延期になってしまいました
この時は落ち込みました(笑)
脱臼は痛いし怖いし
リハーサルは厳しいし
アシスタントの顔は一生見たくないし
体力的にも精神的にも限界だったので
あともう少しだけ頑張れば
解放される…!と思っていたので。
この時は結局半月ほど劇場をクローズし、
稽古もなし。
11月になってようやく
リハーサルに戻りました。
振付家も外部のアシスタントも来てなくて
監督とうちのオペラのアシスタントとの
リハーサルだったのですが
この時期ポーランドで公演が禁止になり
いつまでこの嫌な思い出と怪我の恐怖と戦って
レクイエムを踊り続けなければいけないのか…?
と考えたら絶望してしまって
何をどう踊っても辛くて辛くて。。。
自分の踊りを見失って、
何もできなくなってしまい
前まで出来ていたテクニックまで消え
この時周りにいた人は私のことを
見ていられなかったと思います。
くるみやドンキのリハを挟みながら
12月、1月、2月とレクイエムを続けて
足を痛めたこともあり
ずっと苦しいままでしたが
監督はこの時テクニックから
私のことを救おうとしてくれました
立ち方を見直して、プリエを見直して
バーを見直して、シャンジュマンを見直して。
レクイエムの一番大事なソロも
一つずつのパを
積み木の土台を作っていくように
付きっきりで見てくれました
そのおかげでテクニックが安定し、
落ち着いて踊れるようになって
2月の終わりか3月の始めに
ようやく自分の踊りを取り戻し始めました
そのタイミングでまた振付家を招いて
3月20日にプレミアを予定し
最後の追い込みが始まりました
もちろんもう振り付けは上がっているし
監督とリハーサルを続けていたので
技術面での不安は皆なくなっていて、
後はその踊りでどう叫んでいくか
クオリティのブラッシュアップをしました
この時振付家とのリハーサル期間は
短かったけれど、濃くて質のいい注意を
たくさんもらって
一瞬にして皆の踊りが
一段階レベルアップしたと思います
私のソロもしっかり見てもらったのは
一度だけでしたが、その後調子が
うなぎ登りに上がって行き
毎回の踊りが自分の最高記録を塗り替えている
実感がありました
プレミア1週間前には
もう年末年始病んでいたのはどこかに消え去り
より良くなるために頑張るという
ポジティブな気持ちだけで
毎日二度の通し稽古に励みました
そして迎えた1年ぶりのバレエの舞台。
久しぶりで準備の仕方を忘れているので
当日はかなり神経質になって、
朝からご飯を炊いて
日本でいつもお母さんがしてくれたように
おにぎりを沢山作って持って行き
楽屋でやたらお腹が空いておにぎりを一口食べ、
「お腹いっぱいになって体が重くなるかな?」
と心配になりおにぎりを片付けて、水を飲み
「お腹ちゃぽちゃぽになって
気持ち悪くなったらどうしよう?」
となって水を片付け、
またお腹がすいてきておにぎりを食べて…
とずっと落ち着きませんでした
準備ができて舞台で最後の調整をして
友達とお尻を蹴りあって(ポーランドの舞台前の
グッドラックの儀式です)…
といつものように開演前の時間を過ごしていると
いろんな感情が自分の中で
いっぱいいっぱいになって
泣きそうになっていました
必死で頑張ってきたこと、
たくさん乗り越えてきたこと、
一度はダメだと思った初演が
できるようになった有り難さ…
過去のこと、今のこと、今から起こす舞台
自分のこと、周りのこと…
色々な思いが次々と現れて胸がいっぱいになって
そんな時に緞帳が上がりました。
オケが演奏を始めた時、
「なんて今にふさわしい音楽なんやろう。」と
思いました。
立ち上がり、総踊りが始まってからは
もう無我夢中で踊りました。
なんだか魔法にかかっているような感覚でした
こんなの初めて
普段はこの中の一つの自分
上手く踊れたときは二つの自分しか
感じたことがなかったのですが
三つ感じれたらこんな魔法が使えるんやと
終演後に感動しました笑
1年間苦しんだからこそ
感じられたんやと思います
舞台上で見守ってくれた皆も
今まで私の苦しみとスランプを見てきてるから
何人もの友達が
「アイカよー頑張った
舞台上で泣くのこらえるの大変やったわ」
と言ってくれました
ソロが自分のバレエ史上最高の出来で終わり
早着替えを手伝ってくれるおばちゃんたちに
「ぶちかましたった」と言って笑われ
そして最後の総踊り。
いつも瀕死状態で踊っているのですが