病院に到着する。
病室に向かう。
妻は病室から陣痛室と呼ばれる分娩室の手前の部屋に移動していた。
俺「大丈夫なん?」
今考えると、かなりまぬけ、大丈夫なわけはない。
妻「うん・・・まだ、なんとか。来てくれてありがと。」
俺「なに言うんよ、当たり前やろ。」
妻「そやな・・・。」
看護婦さん「まだ、陣痛が間隔広いからすぐじゃないと思うけど、今先生にも連絡してるから安心してお待ち下さいね。」
俺・妻「はい。」
俺と、妻は陣痛室で間隔が連続してくるまで待つことになった。
結論は、今まで読んでくれてる人は分かると思うけど・・・・
この後、ほぼ9時間もの間。陣痛が、だいたい15分間隔で妻を2分近く襲うことになる。
正直、見てるこっちが辛くなるような状態。
痛みがくるたびに、甲高い声で泣きじゃくりながらパパ、パパと呼ぶ妻を俺はただ、背中をさすったり、肛門を押さえたり(妻は少し痛みがマシになるようだった)しかできず、こんなにも俺て無力なんだなと思い知らされた。
変われるなら変わりたい。
ほんまに心からそう思った。
そんな闘いを5時間くらい続けただろうか。
先生が、やってきた。
先生「陣痛の間隔がなかなか短くならないね。ま、まだ大丈夫やけど、もうしばらくこの状態が続くようなら促進剤使おうかな。」
俺「お願いします。」
先生「そんときは、ちょっと書類にサインお願いしますね。」
俺「はい。」
そして再び、妻のそばでただ妻の痛みを少しでも和らげたい気持ちだけで俺は妻の出産までの道のりを共に過ごした。
陣痛の間隔はその後も中々短くならず。近づいたり、遠ざかったりを繰り返していた。
俺は、正直そんな妻を見ているのが限界に近づいていた。
9時過ぎだったか、10時手前だったか記憶は定かじゃないが、先生のほうから促進剤の投与の話があり、俺は妻に確認し書類にサインをした。
看護婦さんが、点滴に似た促進剤を妻に投与し始めた・・・
ほんと、ほんまにすぐに陣痛の間隔が短くなり、急激な変化が俺から見てもはっきり分かった。
妻の息が荒くなり、もうダメ、痛いという言葉がナイフで心臓を刺されてるんじゃないかという痛みをともなって頭の中に響いてきた。
妻は、そのまま分娩室へ、移動。
俺は外で待つことになるのかと思っていたら・・・
看護婦さん「旦那さんも中に!!」
俺は、前掛けと、マスクをして分娩室に入っていった。
エタノールの匂いのするその部屋に入った印象は、産まれるんだ。もうすぐと実感させるに十分なリアルさを俺に与えた。
妻は、分娩台の上。
さっきよりも辛そうな表情で看護婦さんの声に反応しながら
妻「もう、いきんでもいいの!?」
看護婦「いいですよ!!いきんで!!」
俺は、妻の左側に立ち、ただただ、手を握るしか出来ていなかった。
手を握り、がんばれ、がんばれと強く声に出すしか出来なかった。
そして、分娩室に入って1時間。ついに頭が妻の又の間から見えた。
看護婦「Sさんもう少し!!吸って吐きながら力入れて!!」
俺には、まるで静かな瞬間だった。
音がなかった。
赤ちゃんの頭が、肩が、お尻が足が・・・へその緒を巻きつけた状態で妻の中から出てきた。
妻は、この時意識が飛んだらしく生まれた瞬間のことを覚えていないと後で聞いた。
なかなか泣き声がしない。
まさか・・・不安になり始めたとき。
「おぎゃー!おぎゃー!」
息子が泣いた。
俺「生まれた!泣いてる!」
妻の手を握り、妻の顔を見たら俺はもう、涙をこらえられなかった。
生まれた安堵感と
妻の産むまでの苦痛としんどさ。
そして、妻の陣痛の痛みから解放された表情と
妻が無事であったという喜び。
とにかく俺は、妻の頭を撫でながら
「ほんまによくがんばったよ・・・ほんまに・・・」
そう言いながら泣くことしか出来ていなかった。
次回へ続く・・・。