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 ガクとの連絡が途絶えたまま、2ヶ月が過ぎた頃、わたしの身体がおかしくなったからだ。重油を注入されたように身体が重く、そしてそれが燃えるように熱い。火照っているのではなく熱いのだ。小さなころから使っている水銀の入った体温計ではかってみると、みるみるうちに水銀は昇りつめてしまった。少なくとも45度は超えているということだ。人は、45度になると生きていけないらしい。なんでも、体内の細胞は、45度という温度に耐えられないからだそうだ。たしかに、身体の中の色々なものが溶けていっているのを感じる。そして、小さな音を立てて破裂しているのも聴こえる。体内から、壊れゆく細胞の数だけ、何億、何十億いやそれ以上の数の細胞が壊れていく音は、まるで砂利の浜に打ち寄せる波のようだ。

 そして、わたしの身体はある時ショートしてしまった。一人がけのソファーに座って本を読んでいたとき、プシューンと音がして動かなくなったのだ。そのまま、幾晩を過ごしたのだろうか。わたしは、不思議な香りのする部屋の小さなベッドにうつ伏せの状態で寝かされていた。肩越しに男たちの穏やかな声が聞こえる。

「奇跡の身体です。どこまでも青く深い…こんな背中をしている女性に出会ったことがない。」

「いえ、奇跡ではありません。現実なのです。この女性…ケイというのですが、ケイの身体こそが我々が何の疑問もなく立っているこの地球なのです。」

「と言いますと?」

「言い表すのは非常に難しいのですが、彼女の身体は、地球と表裏一体…いえ、同一のものなのです。それは、ケイの先祖から伝わる遺伝のようなものでして、ケイの母親も1度、ここを訪れたことがあるそうです。」

「そういうことですか。やっとわたしに鍼灸の手ほどきをしてくれた師匠が言っていたことが分かりました。」

「と言いますと?」

「師匠は、わたしにいつも言ってました。『地球のバランスに手を入れてあげたのは自分だ。お前がいまここにあるのは、今も昔も自分のおかげなんだ』と。変な話をするなと思っていたのですが、そういうことなのでしょうね。」

「多分、そうでしょう。そして、先生にケイをおまかせしたのです。」

「それは、地球を救うことになるのかな?」

「そこまでは僕には分かりかねます。わたしは、彼女をここに連れていくことを任務として与えられただけですから。」

「わかりました。やってみましょう。それにしても、すごい体温ですね。」

「2時間前くらいに計ったときは、77度ありました。」

「そんなにあったのですか。たしかにこれほど体液がフルスピードで循環していたら仕方ありますまい。では、まず身体の熱を放散させていきましょう。」

 そう言うと、鍼灸師は、施術を開始した。背骨の周囲を注意深く、触診した後、幾本かの針を刺した。

 どうもわたしは、島を出たようだ。