作戦会議をしようということになり、大塚くんの家に招かれた。
 大塚くんの家は、かっぱ塚のすぐ近くにあった。かっぱ塚の裏の林を抜け、防空壕跡に入り、その奥にある土でうまくカモフラージュされた扉を開けると、かっぱの集落があったのだ。僕が生まれていないころの日本の風景とはこんなものではないだろうかと思われる“懐かしい”色調の街並みだった。その集落の中でもひときわ目を引く大きな建物が大塚くんの自宅で、縁側から直接家に入り、2階にある大塚くんの部屋に入った。
「ちょっと見ていてください。」
 大塚くんはそう言うと、大きな木のブロックを積み上げ始めた。僕に背を向けまま慣れた様子で次々とブロックを積みあげ、瞬く間に“家”が完成した。
「これを壊してみてください。」
 大塚くんは、木で作ったブロックの脇によけ僕を手招きした。僕は、いいのかなと思いつつ、ブロックの上半分くらいを押し崩した。大塚くんは、僕の行為を見て悲しいそうな顔をした。
「ごめん。僕だって壊したくなかったんだよ。大塚くんが作ったものだし。だけど、大塚くんが壊してくれって言うから。」
 しばしの沈黙の後、大塚くんは狂ったのかというくらい木で作った家をぐしゃぐしゃに蹴飛ばした。それは、いつまでも続いた。僕は唖然として見ていたけど、大塚くんの白い靴下に血がにじんでいるのを見てから我に帰り、大塚くんを羽交い締めにした。大塚くんは、それでも足をバタバタさせて木のブロックを蹴ろうとする。顔を見ると、涙でぐしゃぐしゃだ。
「だから、人間は駄目なんです。壊すことさえ出来なくなってしまっている。壊すときは、いっぱい壊さないと意味がないんです。お父さんが言っていました。人間は創る力があるのに、壊すことを忘れている。恐れている。壊さないから創れないんだ。かっぱと人間は、ずっと昔一緒に生活していたんだよ。だけど、人間は自分たちだけで何でも出来るからと、どんどんかっぱを隅の方に追いやって、人間たちだけで生活するようになった。そして、創ることも壊すことも出来なくなった。お父さんたちは、ぐしゃぐしゃに壊すつもりだよ。壊してみて、何も創れなかったら乗っ取るつもりみたいだよ。僕は嫌なんだ。力で乗っ取るなんて。仲良くしようよ。みんな仲良くしようよ。」
 大塚くんは、僕にしがみついたまま延々と泣き続けた。
 無茶苦茶な話で、唐突な話で、どっきりだったら、あまりに手が込んだ仕掛けだけど、僕はなんとなく本当の話かもしれないと感じ、それはそれで大変で、だけど何をどうやったらいいのか分からないまま、大塚くんをぎゅっと抱きしめたまま散らばったしまった木のブロックを眺め続けた。