かっぱの大塚くんとは、それから毎朝会う。もちろん、場所は“かっぱ塚”前で。30過ぎの僕と、10歳前の大塚くんで、どんな話をしているかというと…実に多岐にわたっていて、加えて僕が大塚くんから色々教わっているような状況。よく跳ぶ紙飛行機の作り方から、国際経済の裏側まで。じつに大塚くんは、ものごとをよく知っている。そして、10歳前のボキャブラリーで話してくれるので、この上なくシンプルで分かりやすい。
「ところで大塚くんは、そういったことをどうやって知るの?」
大塚くんは、ちょっとだけ寂しそうな表情をしたけど、すぐにいつもの笑顔に戻ってこう言った。
「お父さんから教えてもらうのです。僕は、かっぱだから学校に行けないのですが、その分、お父さんが何でも教えてくれます。お父さんは、偉い人なので、何でも知っているのです。」
ちょっと意地悪かなと思ったけど、こう尋ねてみた。
「じゃあ、お父さんはどこでそんなに沢山のことを知るのかな。」
「お仕事でだと思います。お父さんは、朝早くから夜遅くまで休みなく働いていますから。」
「お父さんのお仕事は何?」
「ロック系のエンジニアです。」
「ロック系のエンジニア?」
「そうです。お父さんが言うには、世の中は、すべてロックなのだそうです。“壊して創る”…つまり、世の中の色々なものを壊してから新しいものを創るための装置を設計しているのです。だけど、最近、勝手な人間が増えすぎて、そのバランスが崩れていると、お酒を飲み過ぎたときに言っていました。かっぱの力が及ばないと嘆いていました。そして、やりたくはないけど、勝手な人間たちに“ぎゃふん”と言わせてやるしかないと言ったのです。その“ぎゃふん”のはじまりに、ここから見えるこの景色を選んだとこっそり教えてくれました。」
「そんな大事なことを僕に教えてくれていいの?」
「本当はいけないことです。だから、内緒にしてください。だけど、僕は人間や動物、植物がいっぺんに沢山死ぬようなことは嫌いです。怖いのです。と言っても、僕のような子どもが何を言っても、かっぱの世界では、その意見を聞いてもらえることはありません。だから、こっそり、ここに来て、こうやってこっそり教えてしまっているのです。お願いです。なんとかなるように、なんとかしてください。」
僕は、黙るしかなかった。大塚くんの言うことは、あまりにオカルトチックでそのまま受け入れることは出来ないけど、彼との交流の中で、彼が嘘をついたり、知ったかぶりをしたことは一度もなかった。
「なんとかしたいけどな。でも、僕には、そんな力があるとは思えないよ。ジョギングして、僕である必要もない仕事を毎日こなして、ビール飲んで寝ることをただ毎日繰り返しているだけの大人だから。」
「僕は、そうは思いません。お父さんが言っていました。“早起きする人間は、ほぼ真人間だ”と。だから、勇気を出してお願いしたのです。」
「そうか…お父さんがそう言っていたんだね。うむうむ。ちょっと考えてくるね。」
 ややこしいことは苦手なんだけどな。