私の名前は瀬川奏音



冷え込みが激しい真冬



私達、透色ドロップの面々は山で迷っている



You Tubeの撮影で山に来ていたのだが



撮影スタッフ達とはぐれてしまい



今に至る



携帯も通じない寒さは容赦なく更に増してくる



闇雲に歩いてしまい今どこに居るのか?



最早、全くわからない状態



寒さと絶望と死の恐怖が私達を襲っていた



里穂「さ、寒い…」



ちばな「み、みんな大丈夫?」



なぎまる「な、何とかね」



りんか「き、きっと助けが来るよ」



美空「お腹も空いたね…」



千尋「み、みんな兎に角固まろうよ」



奏音「す、少しでも体を暖めなきゃ」



里穂「私達、このまま凍えて死ぬのかな…」



ちばな「馬鹿、何てこと言うのよ!」



里穂「ご、ごめん」



里穂「ごめんね、私馬鹿だね…」



里穂「ごめん…」



千尋「そんな落ち込まないでよ」



りんか「…」



りんか「そんな、お馬鹿な里穂姉にぎゅー」



なぎまる「そうだ、皆でぎゅーだ!」



千尋「そうだ、猫団子ならぬ透色団子だ!」



奏音「少し暖かくなったかもしれないね」



美空「うん、それに安心するな」



里穂「ごめん、私が最年長なのに…」



ちばな「こんな時に最年長も最年少もないって」



なぎまる「どこかに家とかないのかな…」



千尋「こんな山奥に家なんて…えっ?」



りんか「洋館だ…」



里穂「こんな山奥にあんな立派な洋館があるなんて…」



ちばな「よ、妖怪とか出ないよね?」



奏音「怖い事言わないでよ」



美空「入れて貰えないかな?」



なぎまる「でも、怪しさ満点じゃん…」



美空「私、行ってくる」



里穂「み、みくちゃん」



なぎまる「じゃあ、私と美空で行くよ」



ちばな「危なそうならすぐ逃げよう」



りんか「一応、木の棒持って行くね」



奏音「落ち着いて話せば分かってくれる筈」



千尋「じゃあ、行こう」



美空「鳴らすね」



ピンポーン



なぎまる「すみませーん、何方かいらっしゃいますか?」



里穂「誰も住んでないのかな」



ちばな「すみませーん」



水伶「はい、どちら様ですか?」



りんか「あの私達、山で迷ってしまって」



奏音「図々しい事は十分に承知なのですが」



里穂「少し、暖を取らせて頂けたらと」



美空「お願いします」



水伶「それは、大変でしたね」



水伶「どうぞ、お入り下さい」



ちばな「ありがとうございます」



千尋「優しそうな女性で良かったよ」



なぎまる「洋館の中すごく暖かいな」



水伶「すぐに暖かい食事を用意致しますので」



里穂「そ、そんな悪いです」



奏音「体が暖まったらすぐ出て行きますから」



水伶「真冬の山は危険です特に夜は」



水伶「明日の朝に出発しましょう」



りんか「何から何まで、ありがとうございます」



水伶「皆、来て」



ゆり「何?お客様?」



優月「どうぞ、お茶でも」



なぎまる「暖かい…」



奏音「生き返るね」



ゆり「どうぞ、ごゆっくりお待ち下さい」



里穂「それにしても広いね」



美空「ここに3人で住んでるんだ」



水伶「いえ、4人です」



なぎまる「後一人は?」



ゆり「この洋館の主でございます」



りんか「主さんは居ないの?」



優月「主は長い旅に出られました」



奏音「じゃあ、寂しいですね」



水伶「帰って来られるまで私達が洋館を守っています」



千尋「凄い、掃除だけでも大変だ」



水伶「では、食事を作って来ます」





美空「取り敢えず、優しそうな女性で本当に安心したよ」



里穂「ミステリアスな女性だね」



奏音「きっと、悪い人ではないよ」



なぎまる「安心したら、お腹ペコペコだよ…」



りんか「ラーメン食べたい?」



なぎまる「勿論、帰ったら速攻だよ」



千尋「壁に飾ってある絵画とか高そうだ」



ちばな「相当なお金持ちみたいだね」



里穂「あれ?」



奏音「何?どうしたの?」



なぎまる「あの絵、主さんかな?」



りんか「優しそうだな」



美空「神様みたいな人だね」



千尋「ただの肖像画なのに貫禄が違うよ」



ちばな「本当だ、背筋が伸びるな」



水伶「お待たせいたしました」



里穂「ご、ご馳走だ…」



奏音「本当に良いんですか?」



ゆり「勿論です、お腹いっぱい食べて下さい」



なぎまる「じゃあ、遠慮なく!」



りんか「いただきまーす」



美空「美味い、とっても美味いです!」



優月「それは良かったです」



ちばな「あの」



水伶「どうされましたか?」



ちばな「あの、肖像画が主さんですか?」



ゆり「はい、とても尊敬出来るお方です」



里穂「絵を見てるだけで伝わって来ます」



奏音「早く帰って来られたら良いですね」



優月「はい、私達も首を長くして待っております」



水伶「では、ごゆっくり」



なぎまる「おいしー幸せ」



りんか「ちょっと前まで震えてたもんね」



美空「家って有り難いんだね」



千尋「今回の事で痛感したわ」



ちばな「満腹だー」



優月「お風呂も用意してありますので」



ゆり「ゆっくり入ってお休み下さい」



里穂「何から何までありがとうございます」



風呂場



りんか「広いねー」



なぎまる「泳げちゃうよ」



奏音「体の芯から暖まる」



美空「私、先に上がるね」



美空「何だか、逆上せそうだから」



千尋「大丈夫?ついて行こうか?」



美空「大丈夫だよ」



脱衣場



美空「ふぅ、良いお湯だったな」



美空「鏡も大っきいな〜」



水伶「あの」



美空「ひゃっ!」



水伶「も、申し訳ございませんでした」



美空「い、いえ…」



水伶「お着替え置いておきますね」



美空「あ、ありがとうございます」



水伶「では」



美空(今、後ろに居たんだよね?)



美空(後ろに居たのに何で)



美空「何で鏡にうつってなかったの…」



寝室



美空「…」



ちばな「どうしたの?気分悪いの?」



美空「大丈夫…」



里穂「何かあったなら言いなよ」



美空「うん、あのね…」



奏音「鏡に映らないか…」



りんか「まさか、吸血鬼とか?」



なぎまる「ま、まさか」



ちばな「吸血鬼は鏡に映らないって言うけどさ…」



千尋「だから何?吸血鬼だったら何?何なの?」



里穂「何なのって怖いじゃん…」



ちばな「最初から襲うつもりだったとかだったら…」



千尋「襲うつもりなら、とっくのとうに襲ってるよ」



なぎまる「油断させといてとか…」



千尋「あんなに良くして貰ってるのに」



千尋「みんな、そんな奴だったんだ」



千尋「最低だよ…」



奏音「ちょっと、落ち着きなよ」



りんか「別に何も起こってないんだからさ」



りんか「ちょっと落ち着こ、ねっ?」



千尋「わかった、ごめん…」



千尋「みんなもごめんね」



里穂&ちばな&なぎまる&美空「私達もごめんね」



こんこん



里穂「は、はい」



ゆり「失礼します」



優月「勝手ながら、お洋服は洗濯させて貰いました」



ゆり「明日の朝にはお部屋の前に置いておくので」



水伶「明日の朝に着替えて下さい」



ゆり「村まで私達が責任を持ってご案内致しますので」



優月「今夜はごゆっくりお休み下さい」



ちばな「は、はい」



水伶「では、おやすみなさい」



なぎまる「お、おやすみなさい」



奏音「もう、寝よ」



里穂「うん、そうだね」



千尋「明日は案内してくれるみたいだから」



りんか「これで安心だね」



美空「おやすみなさい」



夜中



美空「喉が渇いて目が覚めてしまった」



美空「お水飲もう」



台所



美空「おいしかった」



美空「洗っておかなきゃ」



水伶「どうかされましたか?」



美空「み、水伶さん…」



水伶「洗っておきますので」



美空「は、はい…」



水伶「…」



美空「あの…」



水伶「はい」



美空「何でもないです…」



水伶「脱衣場での事ですね」



美空「…」



水伶「お察しの通り私達は人間ではありません」



美空「…」



優月「ですが、私達は貴女達に危害を加えるつもりは全くありません」



ゆり「どうか信じて下さい」



美空「分かりました、信じます」にこっ



水伶「ありがとうございます」



翌朝



里穂「うーん、おはよう」



ちばな「よく寝た」



奏音「何にも起こらなかったね」



なぎまる「うん、取り越し苦労だったよ」



りんか「美空、何だか晴れやかな顔だね」



美空「うん、実はね」



千尋「そうだったんだ」



水伶「おはようございます」



優月「朝食の準備は出来ております」



ゆり「食べたら出発しましょう」



里穂「あ、あの」



水伶「どうされましたか?」



ちばな「私達、こんなに良くして貰っていたのに」



奏音「貴女達の事を疑ってしまって」



りんか「だから、謝りたくて」



美空「本当に…」



なぎまる「失礼な事して…」



全員「すみませんでした!」



水伶「そんな、お気になさらずとも」



優月「私達も驚かせてしまいました」



ゆり「頭を上げて下さい」



水伶「出発しましょう」



全員「ありがとうございます!」



暫くして



水伶「ここまで来れば大丈夫です」



優月「少し歩けば村があるので」



ゆり「お気をつけて」



千尋「あっ!村人さんだよ」



里穂「本当にお世話になりましたって…」



ちばな「居ない」



奏音「消えちゃった」



なぎまる「一体何だったのかな」



りんか「不思議な出来事だったね」



美空「きっと、山を守っているのかもね」



千尋「洋館だけじゃなくね」



村人「あんたら、こんな所で何してるんじゃ?」



里穂「実は…」



村人「それは、翡翠キセキじゃ」



ちばな「翡翠キセキ?」



村人「主が残した山を守る3人の精霊じゃよ」



なぎまる「精霊だったんだ…」



村人「3人は元々人間じゃったんじゃよ」



奏音「人間が何故、精霊に?」



村人「3人は貧しい出の女の子で病弱だったんじゃ」



村人「それを見兼ねた洋館の主が引き取り」



村人「まるで、実の娘のように大切に育てた」



りんか「やっぱり、主さん優しい人だったんだ」



村人「しかし、主は事故で亡くなり」



村人「3人の女の子も後を追うように病死した」



美空「そんな悲し過ぎるよ…」



村人「彼女達はこれからも主が帰るまで待ち続ける」



村人「主が愛した山と洋館を守る為にな」



千尋「いつか会えたら良いな」



ちばな「あっ!スタッフさんだ」



里穂「じゃあ、帰ろう」



こうして、私達は不思議な経験をして



東京へ戻った



街はクリスマス一色だった



幸せな空気が溢れてると思いきや



あっちのサラリーマンは会社が上手く行ってないみたいだ



あそこの女性は彼氏と喧嘩したみたい



皆、一様に表情が暗い



クリスマスだと言うのに空気が重い



私達も気分が滅入って来た時だった



街の真ん中に突如として現れたんだ



翡翠キセキの3人が…



3人はお互いの顔を見て頷き



踊り始めた



里穂「な、何で翡翠キセキが?」



ちばな「他の人には見えてないんだ…」



奏音「綺麗な踊りだな」



なぎまる「魅入られるよ」



りんか「み、みんな周りを見て」



千尋「さっきまで負のオーラで満ち溢れていたのに…」



美空「翡翠キセキが踊り始めた途端に笑顔になったよ」



里穂「あ、あそこに居るのは」



ちばな「主さんだ」



なぎまる「帰って来たんだ」



奏音「再会出来たんだね」



りんか「本当に良かったよ」



千尋「ねぇ、改めてお礼言いに行こうよ!」



私達が走り出した時



彼女達は一礼して消えた



話したかったな



そう思った瞬間



私達の周りを暖かい風が吹いた



まるで、あの時みたいに私達を寒さから守るように



きっと、彼女達なりの挨拶だったんだ





翡翠キセキは今も世界中の人々を笑顔にしてるんだ



大切な主さんと共に



風が去り彼女達も去ったみたいだ



3枚の翡翠の花弁を残して



翡翠の花言葉



私を忘れないで



翡翠の意味



長寿・幸福・安定



終わり