通勤に使っている駅まで続く道は、木が両脇から枝を広げ、ほとんど空に覆いかぶさっている。
それが数十メートル続くので、その場所を通る時は前後左右から集中砲火を浴びるみたいに蝉の鳴き声がうるさい。
自転車を漕いでいるので、鳴き声にドップラー効果が起こり、特に暑い日は、空間が歪んでいるみたいに、音が奇妙な遠近感のリズムを持って聞こえる。
鳴き声が大きい場所ほど木陰が濃いので、自転車のスピードで空気を押しのける顔面が心地よい風を受ける。
この瞬間に、永遠に自転車をこぎ続けることができたら気持ちいいだろうと考えたことがある。
目の前に、ぼくが乗るべき電車の一本前の電車が駅を出て行くのが見えているにもかかわらずだ。
絶対に続かないことがわかっている蝉のアーチをくぐりながら永遠をふと思うのはどうした訳だろう。