LCC活用`諸刃の剣`、激安集客も厳しい収益
Source/SankeiBiz 2月18日05:00
http://www.sankeibiz.jp/business/news/110218/bsd1102180503007-n1.htm
http://www.sankeibiz.jp/business/news/110218/bsd1102180503007-n2.htm
http://www.sankeibiz.jp/business/news/110218/bsd1102180503007-n3.htm
格安航空会社(LCC)の日本進出が相次ぐ中、大手旅行会社がLCCと提携する動きが加速している。大量に仕入れた格安航空券を海外パックツアーに活用。従来の半額近い商品を売り出し、人気は上々だ。
ただ、コスト削減のため独自のルールを貫くLCCの姿勢には困惑する声もある。業績停滞に苦しむ旅行業界にとって、LCCは集客力を高めるメリットがある一方で、価格競争激化による業界の疲弊懸念もあり、“もろ刃の剣”となりそうだ。
学生など新規開拓
エイチ・アイ・エス(HIS)は2月9日、タイのLCCと提携し、成田空港から首都バンコクへのチャーター便を3月15日から5月8日まで運航し、一部座席を片道4800円で販売すると発表した。
最大手のJTBも昨年、国際化されたばかりの羽田空港に就航したマレーシアのLCC「エアアジアX」と手を結び、クアラルンプール(4日間滞在)ツアーを運賃、ホテル代など込みで3万円からという激安ツアーを発売。『発売から数日で3月末までの商品がすべて売り切れた』(JTB)という人気ぶり。旅行業界2位の近畿日本ツーリストはオーストラリアのジェットスター航空と組み、格安ツアーを展開する。各社とも『LCCの利用で旅費の捻出が厳しい学生など、これまでとは違う顧客層を開拓できる』と意気込む。
LCC側にも大手旅行会社との提携メリットはある。ネット経由で申し込む注文スタイルが中心のLCCの直販体制に不安を抱く利用者も少なくない。旅券や旅行先での移動、宿泊手配も含めた旅行会社のサービスを活用し、顧客からの信用を高められる。
ただ、LCCの活用はメリットばかりではない。今月上旬、都内ホテルの大宴会場を借り切り大手旅行会社が主催した海外旅行商談会。主催者の幹部は『ここにはLCCは来ていません』と囁いた。この商談会は地域の旅行取次業者や外国の政府観光局、有名ホテル、大手航空会社を招き、海外ツアーを企画するための情報交換の場。LCCに言及したのは、“業界ルール”が通じないLCCとの交渉は『対応が難しい部分もある』ため、ツアー企画にあたっては既存顧客とは別ルートで交渉しているという。
特有ルールに不安
コスト削減を徹底するLCCは、既存の航空会社とは異なる特有のルールを持つ。既存の航空会社は世界的な業界団体である国際航空運送協会(IATA)などに属し、例えば事故が発生した場合の補償や、荷物が紛失した際の捜索方法などトラブル対応がある程度標準化されている。これに対しLCCの場合『どの程度対応してくれるか分からない』(ある旅行会社幹部)。
サービス面の懸念もある。日本の旅行会社のツアーでは、航空機の発着遅延などによるスケジュール変更などの際、顧客に補償金を支払う場合が多い。しかし『LCCでは時間変更が比較的多い』(同)ため、旅行会社にとって思わぬ経費が嵩む可能性は捨てきれない。
旅行会社の経営改善につながるかどうかも未知数だ。2008年のリーマン・ショック以降の景気低迷やネット専業旅行業者の台頭もあり、JTBや近ツーの09年度決算までそれぞれ2期、3期連続で最終赤字が続く。円高という海外旅行にとって追い風はあるものの、LCC活用ツアーでは経費をぎりぎりまで詰めなければならず、収益面では厳しい。そもそも若年層の旅行離れなども顕在化し、市場活性化の糸口は見出せていない。
旅行業界に詳しい東レ経営研究所の永井知美シニア産業アナリストは『格安航空の台頭は旅行業界にとってマイナス』と指摘する。市場の縮小傾向と客単価下落がダブルパンチとなる可能性があるためだ。格安ツアーで若年層などを取り込んだとしても、旅慣れてくれば自分でチケットやホテルをネット予約し、旅行会社からは離れていくかもしれず『中小も含めれば、旅行業界全体が疲弊していく可能性もある』(永井氏)。
LCCの台頭をきっかけに、旅行業界の生き残りを懸けた合従連衡機運が再燃する可能性もありそうだ。
(高山豊司)