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私が丁度東京を発つ頃に亡くなった司令部外人部隊支援中隊のローレンス兵長のお葬式の儀仗兵をさせていただいた。

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彼と最期に話したのは2か月前に司令部支援中隊を叩き出されスピード要塞勤務になったばかりのかなりあたふたしていた時、

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オフィスに隠してあったハイネケン片手に新中隊の肩章をくれた時だ。

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「　まあ、ゆっくり行こうや。

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焦らなくても大丈夫、ここの中隊の補給品の事なら全部俺に言えよ？

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もう仲間なんだからサ　」

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売店で勤務していた時いつも午前10時くらいにやって来ては買ってくれたハイネケンの小瓶を片手におしゃべりするのが好きな男だった。

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綺麗な七三分けで枠の無いメガネの身だしなみは突き出した腹を含めても子綺麗でスマートな印象、それでいて子供時代には握っていたキャンディー🍭をハイネケンに持ち替えただけの様な子供っぽい印象を残す49才のハンガリー人のおじさん。

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相方のロシア人トロポフにアイツ飲み過ぎだろうと耳打ちする私にトルポフは、

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「　あのな、外人部隊で友達の好物にうるさい事をいうもんじゃないぞ。

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例えアイツが明日死ぬとしても友達が飲みたいって言うのなら俺たちはただそれを売ってやるだけだ、覚えとけ　」

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そしてとうとうその日が来たと言う訳か。

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彼は召される当日もハイネケンを握り締めていたんだろうか？

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だが自分から何か胸が苦しいと医務室に行ってそこで帰らぬ人となったそうだから優しい医務室のみんなに囲まれて逝った訳だ。

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それなら良かったかな。

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マルセイユの広大な墓地の一角に外人部隊兵の墓地はある。

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トリコロールに包まれた棺に捧げ銃、そして将軍を先頭にやって来る一団、陰でひたすらに涙を拭うのは奥さんだがそれを両脇で支える屈強な二人の男達は彼らの息子たち。

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もう「　遺児　」という年齢ではない成人男性たち、これなら安心だ。

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奥さんは悲しみに暮れるだろうがこの二人の息子たちが支えてくれる、ローレンス、君は既に大きな立派な偉業をやり遂げていたんだね。

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儀仗が終わり武器を格納しすぐに要塞に戻る私と相方の古参兵長ルカツ、淡々と儀仗隊長をやり遂げておちゃらける明るいポーランド人だがノートルダムの高台の裏道の信号待ちをしている最中に言った。

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「　俺は泣かないしクドクドしみったれた話もしねえ、俺達はまだ生きているし明日を生きる責任があるからな、そうだろ？　」

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考え込む私に気を遣って明るい車内ミュージックを流して身体を揺すったり並走する人たちにウインクしていたのはそういう理由からか。

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実は私は沢山の宗教によって違う様々なデザインのフランスの墓地に少し困惑していて帰国の間詣でた家族のお墓と違うあのメルヘンチックな空間を思い返していただけだったんだがこの男はきちんと悲しみを感じていたんだな。

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意外に優しい男だと見直した。

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何がともあれ、

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さよなら、ローレンス。

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またいつかどこかで。

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『 葬送 』

『　葬送　』